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769.動物性食品は敵か味方か

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769.動物性食品は敵か味方か

健康的で環境的に持続可能な食事における動物性食品(animal-source food(ASF):肉、魚、卵、乳製品を含む)の役割に関する議論はしばしば二極化しています。本日は、動物性食品の健康と環境への利点とリスクに関する現時点でのエビデンスをまとめたBeal et al. (2023)の論文をご紹介します。以下の文章は、本論文を参照したものです。

動物性食品は人間の健康に重要な役割を果たす必須栄養素を豊富に含み、特にサブサハラアフリカや南アジアの低所得国における栄養不足の改善に役立ちます。 たとえば、必須栄養素の1つであるビタミン B12は植物性食品にはほとんど含まれません。また、生体利用効率という面でも、動物性食品は植物性食品よりも生物学的に利用可能な形態のビタミン A、ビタミン D、鉄、亜鉛を多く含んでいます。

しかし、健康面でのリスクもあります。加工肉に含まれる防腐剤、飽和脂肪、加熱や調理の際に生じる発がん性物質による非感染性疾患(non-communicable diseases(NCDs))への影響が指摘されています。未加工の赤身肉もバランスの取れた食事の一部として消費されない場合には非感染性疾患に関連すると言われ、適量範囲での摂取が望まれます。

動物性食品の生産は一般に環境に大きな負荷を与えると言われます。家畜は放牧と飼料作物生産に広大な土地を利用し、世界で家畜生産に使われている農地面積は世界の農地面積の50%、地球上の土地の20%にあたります。また農業用水の41%を使用しています。

しかし、適正な規模で地域の生態系や状況に応じて生産された場合は、循環型で多様な農業生態系において重要な役割を果たすことができます。状況によっては、生物多様性や劣化した土壌の回復、食料生産からの温室効果ガス排出の軽減に役立ち、世界の人々の食料安全保障と栄養に貢献することができます。

健康的で環境的に持続可能な動物性食品の量と種類は、地域の状況と健康上の優先事項に依存します。そして、時間の経過 ―人口が増加し、栄養上の懸念が生じ、新しい技術による代替食品が利用可能になり受容される― とともに変化します。概して、加工肉を大量に消費している人々は消費量を減らすことで、対照的に動物性食品の消費が少なく栄養不良のリスクがある人々は消費量を増やすことで恩恵を受けると考えられます。動物性食品消費量増減への取り組みは、影響を受ける地域の利害関係者で一体になって、その地域の栄養・環境上のニーズとリスクに照らして考慮されるべきです。


参考文献

Beal, T., C. D. Gardner, M. Herrero, L. L. Iannotti, L. Merbold, S. Nordhagen, and A. Mottet (2023). Friend or Foe? The Role of Animal-Source Foods in Healthy and Environmentally Sustainable Diets. The Journal of Nutrition, 153(2):409-425. https://doi.org/10.1016/j.tjnut.2022.10.016

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(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)

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