Pick Up

743. プラネタリーヘルスダイエットでは微量栄養素が不足する

関連プログラム
情報

 

743. プラネタリーヘルスダイエットでは微量栄養素が不足する

2019年に発表されたEATランセット報告書(Willet et al. 2019)の中で、地球にやさしい食生活(プラネタリーヘルスダイエット)が提唱され、世界中で大きな反響を呼びました。プラネタリーヘルスダイエット(EATランセットダイエット)とは地球の持続可能性と人間の健康とを両立させるために目安となる食事のことで、本欄でも何度か取り上げています(下記「関連するページ」参照)。本日は、プラネタリーヘルスダイエットで推奨される食事を栄養の観点から再評価した論文(Beal et al. 2023)をご紹介します。

もともとの論文(Willet et al. 2019)によると、プラネタリーヘルスダイエットは現在の世界的な食事パターンに比べてほとんどの微量栄養素供給量を増やすことができます。これには、鉄、亜鉛、葉酸、ビタミン A、カルシウム摂取量の増加が含まれますが、ビタミン B12 は例外で、状況によっては、ビタミン B12 を補給または強化する必要があるかもしれないとしています。

今回ご紹介する論文(Beal et al. 2023)では、世界的に不足している6つの微量栄養素(葉酸、ビタミンA、ビタミンB12、カルシウム、鉄、亜鉛)について、EAT-Lancetの論文とは異なる方法で計算し直しています。たとえば、栄養素の所要量を更新したり、USDAではなく世界的に用いられる食品成分表を用いたり、生だけでなく調理済みの栄養価も考慮したり、分析対象となる食品群を追加したり、ミネラルの生体利用効率(体内で吸収され利用される割合)を考慮したり、活動強度を再考したりしています。なお、サプリメントの摂取や栄養強化食品は想定されていません。

その結果、プラネタリー ヘルス ダイエットでは動物性食品が少なく、ビタミン B12、カルシウム、鉄、亜鉛を十分に供給できないと推定しています。鉄の不足は生殖年齢の女性で特に顕著であり、必要量の55%しか供給できません。そのため、動物性食品を増やしフィチン酸を多く含む食品を減らす(注:フィチン酸はミネラル吸収を阻害するため)ように修正することを推奨しています。一方、本研究は栄養面に注目した評価であり、環境へのインパクトも含めた形では評価していないことには注意する必要があります。

 

参考文献
Beal, T., Ortenzi, F. and Fanzo, J. (2023). Estimated micronutrient shortfalls of the EAT–Lancet planetary health diet. The Lancet Planetary Health, 7(3), E233-E237. https://doi.org/10.1016/S2542-5196(23)00006-2
Willett, W. Et al. (2019). Food in the Anthropocene: the EAT–Lancet Commission on healthy diets from sustainable food systems. The Lancet, 393(10170), 447-492. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31788-4

 

関連するページ
Pickup 461. 先進国における食生活のシフトによる地球・人類の健康の改善
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220120
Pickup 700. 持続的な食生活
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20230120

 

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)

 

関連するページ