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461. 先進国における食生活のシフトによる地球・人類の健康の改善

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461. 先進国における食生活のシフトによる地球・人類の健康の改善

今日、食料システムは、数字上は世界人口に十分な食料を供給していますが、グローバル化のもとで栄養の二重苦が顕在化しています。農業生産性の低迷に悩む慢性的な食料輸入国ではいまだに栄養失調の問題を抱えている一方、中・高所得国では、西欧的な食生活の普及が進みカロリー・高脂質食品の過剰摂取が問題となっています。こうした今日の食料システムは、生物多様性喪失、化学肥料による環境汚染、土地利用変化、気候変動など、地球の犠牲のもとに成立しています。とりわけ、畜産の環境負荷が際立っており、牛肉生産はタンパク質換算で他の動物性食品の2-9倍、植物性食品の50倍以上の温室効果ガスを排出するとも推計され、森林破壊の主要因の一つともされます。

2年前の2019年1月に医学誌LANCETで発表された論文:「人新世の食:持続的な食料システムからの健康な食生活に関するEAT-Lancet委員会の提案 Food in the Anthropocene: the EAT–Lancet Commission on healthy diets from sustainable food systems」は、「地球にやさしい食生活(プラネタリーヘルスダイエット)」を提案し、2050年までに地球の持続性を維持しながら100憶人の世界人口を養う上で、動物性食品を大きく削減し植物性食品中心の食生活の必要性を提言し、大きな反響を呼びました。一方、その年の11月に公表された論文では、プラネタリーヘルスダイエットは、低所得国の貧困層の人々にとっては高額で簡単に入手できるものではないことに言及しました。

2022年1月にNature Food誌で公表された論文は、高所得国において動物性食品から植物性食品への大胆なシフトを推進することで、気候変動や環境保全の目標を複数同時に達成することが可能であると指摘しました。論文が引用した文献によると、2013年時点で、高所得国での一人当たり肉消費は低所得国の6倍に達し、動物性食品は先進国のフードシステム関連の排出の割合の70%を占め、低所得国の22%を大きく上回りました。このことから、先進国での肉消費を削減することによって、世界の農業用地の一部を保全し、炭素貯留や生物多様性保護に振り向けることも可能であるとしています。ただし、食生活のシフトによる気候変動緩和効果の大きさは、高所得国の間でも元々の農業生産慣行や嗜好によって異なります。例えばアメリカやオーストラリアでは動物性食品に占める牛肉の割合が高く、食生活のシフトは高い緩和効果が期待されます。一方、日本や韓国のように乳糖不耐症により乳製品の消費がもともと低い東アジアでは、EAT-Lancetダイエットに従うと乳製品が増加し、その分の緩和効果が相殺されます。論文は、各国の事情に配慮し、健康と環境の両立を目指す食生活の推奨の必要性にも言及しました。論文は世界GDPの68%と世界人口の17%を占める高所得国において、プラネタリーヘルスダイエットを採用することで、先進国における農林水産業からの温室効果ガス排出を61%削減すると同時に、自然の植生回復により相当量のカーボン吸収が可能である、と試算しました。

Nature Food論文は、土地・食・気候・公衆衛生を包括的にとらえたアクションをとることの重要性を訴えました。他方、高所得国においてもEAT-Lancetダイエットへの急激な全面シフトの実現は短期的に現実的でない、という場合、個々の消費者の意識を変え、少しずつ行動を起こすことも十分効果があるようです。例えば、ある論文は、アメリカで最も温室効果ガス排出インパクトの大きい牛肉について、約20%のサンプル消費者が鶏肉や豚肉に代替することで、それぞれ48%・30%近いカーボン・水フットプリントの削減につながり、サンプル全体では9.6%・6%の削減につながりうるとのことです。  

それ以外にも、科学に基づく情報を受けて、食に関する選択・フードロス削減など、個々人の日々の意識行動から地球規模のインパクトにつなげていくことが可能です。


(参考文献)

Zhongxiao Sun, Dietary change in high-income nations alone can lead to substantial double climate dividend, Nature Food (2022). DOI: 10.1038/s43016-021-00431-5. www.nature.com/articles/s43016-021-00431-5

Rose D, et al. Single-item substitutions can substantially reduce the carbon and water scarcity footprints of US diets, The American Journal of Clinical Nutrition (2021). https://academic.oup.com/ajcn/advance-article/doi/10.1093/ajcn/nqab338/…

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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