Pick Up
569. 持続可能な小規模漁業を人類と地球のために
569. 持続可能な小規模漁業を人類と地球のために
南アフリカ共和国、プレトリア大学のシェリル・L・ヘンドリクス教授は、2022年6月23日号のネーチャー誌に「持続可能な小規模漁業を人類と地球のために」のタイトルで論評を寄稿しました。
世界で30億人以上の人々は海洋に依存して生活しており、そのほとんどが発展途上国に住んでいます。また、世界人口の約17%が動物性タンパク質を水産物に依存しており、後発開発途上国ではその割合は約29%に上ります。さらに、世界の人口増加に伴って水産物の需要も増え、2030年までに魚の消費量は約15%増加すると言われています。
海洋生態系は気候変動や乱獲などによって疲弊しています。しかし、将来の食料需要を満たすために水産物を持続的に増産できることが、先行研究で示唆されています。成功の鍵は小規模漁業にかかっています。小規模漁業者が規模を拡大すれば、現在の優位性を失い、大規模な商業漁業と同じように環境負荷が大きくなるかもしれません。しかし、適切に管理された小規模漁業は、生活と環境の双方に利益をもたらすことができます。Hendriks氏は、数十年にわたり食料安全保障と政策立案を研究してきており、これらの漁業を支援し強化する方法として以下の4つを提案しました。
小さな改革
小規模漁業者の漁業権は、定義が不十分で、実効性がなく、不公平に分配されている場合が多いです。小規模漁業ための規定を設けるために、漁業者、漁業、漁船という用語の定義をより明確にすることは、そのような乱獲を避けることに多少なりとも役立つと思われます。大規模漁業者にさらに多くの漁獲能力を与えることは、乱獲を助長する逆効果になりかねません。補助金やその他の資金を小規模漁業に向け、小規模漁業が大規模漁業の負の慣行を取り入れないようにしつつ、市場へのアクセスを拡大できるようにすべきです。
もっと消費を
世界の漁業による損失と廃棄は、全体の30%から35%と推定されています。冷蔵施設や加工設備(乾燥、発酵、マリネ、燻製など)に対する官民の投資は有効と考えられます。水産物消費の戦略として、国際的または国家的な資金援助と、学校、病院、その他の施設が連携した直接契約が有効です。このような取引は、小規模漁業に大規模で安定した市場と貯蔵インフラを提供し、地元での消費を促進します。
地域による管理
小規模漁業の操業を助け、地産地消を促進し、廃棄物を削減するためには、地域コミュニティーの状況に応じた多様な取り組みが必要です。協同組合は、漁業活動の調整、情報(天候、海況、魚の行動きなど)の共有、人権や社会的権利の効果的な擁護など、多面的に支援できます。
統合的なインプット
陸上の資源とは異なり、海洋は明確な領土の境界がない世界的な共有資源です。気候変動、海洋酸性化、乱獲、富栄養化やプラスチックなどの化学物質による汚染など、多様な問題がすべて地域の漁業に影響を及ぼしています。しかしながら、漁業政策が単一の水産資源や個々の漁場を対象としている限り、このような相互作用はほとんど注目されません。統合的土地管理という概念が数十年前から開発課題の一部となっているのに対して、統合的海洋管理はようやく台頭してきており、これに小規模漁業者を含むすべての関係者を巻き込む必要があります。
また、6月29日、国連食糧農業機関(FAO)は、 2022年 世界漁業・養殖業白書(SOFIA)を公表しました。報告書は、世界の漁業・養殖業が2020年に2.14億トン、一人当たり消費量は20.2キロと過去最高値を記録したと発表、とりわけアジアにおける養殖業の著しい成長に言及しました。
漁業・養殖業は、食料・栄養供給のみならず、雇用を通じ直接・間接的に多くの人々の生活も支えており、この分野の持続的な発展は持続可能な開発目標の達成に欠かせません。今年は零細漁業と養殖の国際年(The International Year of Artisanal Fisheries and Aquaculture)であり、国際農研でも様々な機会を設けて、漁業・養殖業分野における持続的開発に向けたイノベーションの役割について、情報発信していきます。
(参考文献)
Sheryl L. Hendriks (2022) Sustainable small-scale fisheries can help people and the planet. Nature. 606: 650-652.
https://doi.org/10.1038/d41586-022-01683-2
FAO. 2022. The State of World Fisheries and Aquaculture 2022. Towards Blue Transformation. Rome, FAO. https://doi.org/10.4060/cc0461en
(文責:情報広報室 金森 紀仁、水産領域長 宮田 勉)