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1293. 地球の限界の尊重と人類幸福度向上の両立

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1293. 地球の限界の尊重と人類幸福度向上の両立


私たちの世界は、環境、健康、安全保障、そして社会の危機が重なり合う状況に直面しています。多くの国々は、人間の幸福を満たす前に生物物理学的閾値を超えており、地球の限界を尊重しながら住民の基本的ニーズを満たすことに成功している国はまだ一つもありません。平均所得は大幅に増加しているにもかかわらず、世界人口の半数は依然として1日6.85ドルの貧困ラインを下回って生活しており、6億人以上が極度の貧困状態にあります。環境圧力への寄与は極めて不均等に分布しており、国内格差は拡大し、富に占める公的資産の割合は減少しています。これらの課題は、環境だけでなく社会の側面にも対処する、緊急かつ体系的な解決策を今こそ必要としています。

Earth4Allイニシアチブは、21世紀を通して世界の大多数の人々の幸福を最大化しつつ、環境リスクを最小限に抑える方法を調査することにより、世界が直面しているシステム的危機への解決策を探求するために設計されました。『成長の限界』(1972)の50周年を記念して2022年に公表された『Earth for All: A Survival Guide for Humanity』は、システムモデリングを用いて、人間による環境への圧力のオーバーシュートに関する問題:「21世紀において、地球の限界を尊重しつつ、人類の幸福度をどのように向上させることができるか」について国際的な議論を促しました。

過去50年間で気候は大きく変化し、地球システムのプロセスにおける変化は加速し、より顕著になっています。そして、今後数十年内に深刻な転換点を超える可能性が高まっています。熱帯地方の居住可能領域は今世紀中に大幅に縮小すると予想されており、数十億人が今日居住可能限界と考えられている気候条件下に置かれる可能性があります。

Global Sustainability誌に公表された最新の論文は、このような大局的かつ長期的な未来の可能性を探るため、「Earth4All-global」と名付けた、高度に集約された新たな定量シミュレーションモデルに基づき、2100年までの気候変動の将来、生活費の上昇、そしてポピュリズムを煽り民主主義を弱体化させる不平等の拡大といった、様々な要因の相互関係を探るシナリオを作成しました。そのうえで、貧困、不平等、ジェンダー平等、食料、エネルギー、という5つの転換策を提案しました。

 


1. 貧困の転換:民間および公共部門の能力への大規模な投資、債務免除、生産性向上率の向上により、すべての低・中所得国における貧困を急速に削減する。

2. 不平等の転換:累進課税の引き上げを通じて政府の能力を強化する。これにより、労働者への所得移転が増加する。

3. エンパワーメントの転換:女性の健康、教育、年金の大幅な改善を含む、女性と女児の機会拡大を反映し、ジェンダー平等を目指す。これは、出生率の低下と増税を通じて実現される。

4. 食料の転換:持続可能な集約化、肥料のより効率的な利用、食品ロス・廃棄の削減、赤身肉の消費量削減を含む食生活の変化を通じて、食料部門の生産性を向上させる。

5. エネルギー転換:エネルギー効率への投資、電化による再生可能エネルギーの割合の増加、そして再生可能エネルギー発電容量への投資。この転換には、CO2回収・貯留技術も含まれる。

 

論文は、これらの解決策が実現すれば、長期的な産業政策と行動変容を後押しし、排出量の削減と生物圏の保護を促進し、比較的安定した地球で暮らすという長期的な目標の達成につながり、大多数の人々の幸福と社会の結束の強化が期待されると論じています。

 

(参考文献)
The Earth4All scenarios: Human wellbeing on a finite planet towards 2100, Global Sustainability (2025). https://doi.org/10.1017/sus.2025.10013 


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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