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1260. 地球の限界内で世界の発展の道を探る

1260. 地球の限界内で世界の発展の道を探る
5月22日、国際生物多様性の日(The International Day for Biological Diversity)は、生物の多様性が失われつつあること、また、それに纏わる諸問題に対する人々の認知を広めるために国際連合が制定した記念日です。今年のテーマは、「自然と持続可能な開発との調和」です。
2015年、世界各国政府は持続可能な開発目標(SDGs)を採択し、2030年までに、人類の福祉を促進し、貧困を撲滅し、地球の生態系の健全性を維持するという野心的なアジェンダを設定しました。地球の限界(Planetary Boundaries)の枠組みは、SDGs実現の可能性を評価する上で重要な役割を果たします。最近Nature誌で公表された論文は、地球の限界内で世界の発展の道筋(Exploring pathways for world development within planetary boundaries)について論じています。
人類が環境に与えてきた圧力は、地球の安定性を危険にさらしています。地球の限界の分析枠組みは、「人類にとって安全な活動空間」を定義し、持続不可能な環境条件の現状を浮き彫りにするために適用されてきました。Nature論文は、この分析枠組みをモデルベースの将来予測と組み合わせることで、地球の限界内で持続可能な開発の道筋を予測し、温室効果ガス削減や肥料利用効率性向上など実現可能な目標に照らし合わせました。
分析の結果、現状維持の政策では、オゾン層の破壊を除くすべての境界で 2050 年までに状況が悪化すると予測されました。まず、ほとんどの地球の境界(一部地域の大気汚染を除く)、特に気候変動、生物地球化学的フロー、生物多様性において、2015年までに1970年と比べて明らかに悪化し、現状維持シナリオでは、2030年と2050年に向けてほぼすべての指標がさらに悪化することが予測されました。とくに具体的な対応策がなければ、2030年と2050年に5つのプロセスで地球の境界を超過し、気候変動と生物地球化学的フローについては、高リスク領域に陥ることが見込まれ、淡水と海洋の酸性化の値は極めて超過に近い状況になることが見込まれます。対照的に、成層圏オゾン濃度の傾向はわずかに改善すると予測され、大気汚染については、大気汚染制御規制の改善とエネルギー消費増加の正味の影響として、値はほぼ一定となると推定されます。より長期的な傾向(2100 年まで)を見ると、成層圏の O3 濃度と大気汚染を除いて、さらなる悪化が予想されます。
全体として、論文の分析結果は、現状維持の傾向が見直さなれなければ、特に気候変動、生物圏の健全性、生物地球化学的フロー(窒素N および リンP)の境界を超えることで、重要な地球システムプロセスが劣化する可能性を示しています。この分析は、同時に、野心的な行動を通じて、人類が安全な活動領域へ復帰することを可能にし、地球の境界のオーバーシュートを回避しうる可能性も示しています。
論文は、地球の限界内で人類が健全に暮らすために必要とされる効果的な政策措置として、 野心的な気候政策の実行、Eat-Lancetプラネタリーヘルスダイエットへの移行、食品廃棄物の半減、利用可能な最良の技術に基づく水利用効率の改善、養分利用効率の最大化、を挙げています。このような対策は文献では技術的に実現可能と考えられていますが、社会的または制度的な実現可能性を考慮して実施できるかどうかは未解決の問題です。今後の研究でこれをさらに検討することが重要です。
以上言及される政策措置は、ほとんどが食料システムでの対応を必要とするものです。食料システムへの変革が、自然と持続可能な開発との調和のカギを握っていると言えます。
(参考文献)
van Vuuren, D.P., Doelman, J.C., Schmidt Tagomori, I. et al. Exploring pathways for world development within planetary boundaries. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08928-w
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)