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600. 「成長の限界」から50年

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600. 「成長の限界」から50年

今年2022年は、1972年にローマクラブが「成長の限界(Limits to Growth)」を発表してから50年目にあたります。

「成長の限界」は、Dennis Meadows博士を中心とする国際チームが、地球と人口・産業・資源利用・環境汚染の間の相互関係をシステムダイナミックスモデルで捉えた最初の試みとされています。報告書は、資源の有限性のもと、指数級的に増える人口増を養うための産業・農業活動は、それに伴う環境汚染等を地球システムが吸収しきれなくなることで、100年内に成長の限界に達しうると警鐘を鳴らし、賛否両論をもたらしたことでも知られています。

報告書出版から約30年後の2004年版(Limits to Growth: The 30-Year Update)の緒言において、著者らは、「成長の限界」の真の目的は、環境再生能力を超えた人類の地球資源への需要のオーバーシュート(意図せずに限界を超えてしまうこと)概念を世間に知らしめることにあったと記しています。著者らは1972年時点ではまだオーバーシュートしておらず、21世紀半ば頃までに行動変容して十分備える余裕があると考えていました。2004年版は、オーバーシュートの結果が観察されるようになりはじめるまで10年、そしてオーバーシュートが実際に社会的に認識されるのには20年かかるだろう、と予測していました。

オーバーシュートが社会的に認識されるようになると予測されていた今日、実際に、異常気象の頻発化による気候の緊急事態が現実化し、国際社会は人獣共通感染症であるCOVID-19、格差の拡大、そして戦争の危機に直面しています。「成長の限界」50年の節目は、これまでの経緯を振り返り、さらに今後の見通しを検討する上で、重要な時期であるともいえます。

 

食料システムの在り方も、過去50年間で大きく変容しました。いわゆる「緑の革命」的な化学肥料・灌漑と高収量品種が導入・普及された地域と、そういった技術が普及せずに慢性的に低生産性に悩む地域を含め、世界食料システムは極めて密接に結びつくようになりました。同時に、食料システムは、世界各地の消費・流通・生産のあり方に応じ、栄養面では飽食~飢餓にわたる栄養の二重負荷、環境持続性の面では化学肥料の多量施肥による温室効果ガス排出・環境汚染低い土地・労働生産性と土壌劣化のもとで加速する土地利用変化や生物多様性喪失、と、多様かつ複雑な様相を示すようになっています。食料システムは、次の30年間で約20億人増え、100億人に迫るとされる世界人口を養うにあたり、気候変動を悪化させずに環境に持続的な方法で生産性を向上し、かつ所得・社会格差を解消していくうえで、世界各地の消費・流通・生産の事情にあったイノベーションを講じていく必要があります。Nature Food誌に寄せられた論考は、食料システムの転換努力を阻む要因として、しばし短期的かつ狭い視野で行われる政策意思決定のあり方を指摘し、長期的かつ包括的なアプローチの必要性を述べました。今こそ、長期的で世界的な視点から、世界各地の様々な食の消費・流通・生産の在り方をリスペクトしつつ、地球全体でのオーバーシュートを回避するための方策の在り方を議論するシステムダイナミックの視点が必要かもしれません。

 

(参考文献)
D. Meadows, D. Meadows, J. Randers. (2004 Limits to growth: the 30-year update. Chelsea Green Publishing Company.  

Timmer, C.P. Food systems carry heavy burdens and politics are making things worse. Nat Food 3, 389–390 (2022). https://doi.org/10.1038/s43016-022-00537-4

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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