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291. 技術的イノベーション解決策のみに頼るアプローチの限界

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2021年4月、Nature Food誌の論説は、食料安全保障と持続性を達成する上で、技術的イノベーション解決策のみに頼るアプローチの限界を指摘し、伝統的知識や行動変容の必要性について論じました。以下、概要を紹介します。

将来、より多くの安全な食料生産を可能にすることを期待されるイノベーションの例として、養殖肉、精密農業、ドローンやAIがあげられます。しかし技術イノベーションだけで持続的なフードシステム構築が保障されるわけではありません。 

今日、技術開発により、未だかつて経験したことがない規模で、自然・個人の生活・社会システムが変容を強いられるようになっています。これを受け、特定のイノベーションによるインパクトが社会的に許容され望ましい状態をもたらすか否かは、社会にとってより切迫した問題となっています。ややこしいことに、イノベーション採択によるインパクトの善し悪しは人々の主観に依存し、かつ、技術を採用する人々・そうでない人々が自分の選択の帰結を完璧に理解していないことも多々あります。

技術イノベーションの限界とリスクを認識すると同様に重要なことは、食料危機が技術的問題にとどまらず、食料危機の解決のために犠牲にしなければならない選択肢(生物多様性など)や選択の自由度などの倫理的側面にも配慮する必要性があるということです。全ての人々を満足させること、あるいは技術採択によって意図しない問題の全てを回避することは不可能です。だからこそ、伝統的知識や行動変容の重要性を忘れることなく、常にリスクを最小化するよう最大限努力する必要があります。

世界人口の不均衡にもかかわらず均衡のとれたフードシステムを達成できると考えるのは妄想に近いかもしれませんが、新しい課題に対応する必要は発明の母であり、技術イノベーションのカギとなります。ただし、技術イノベーションは、それさえあれば行動を変える必要はないという言い訳に使われたり、これまで培ってきた知識や経験の代わりとなると考えるのは賢いとはいえません。技術は人類の知性と想像力の賜物ですが、我々の最大の功績は、変化は不可避であると認識する能力にあるでしょう。


参考文献

Editorial. The limits of a technological fix. Nat Food 2, 211 (2021). https://doi.org/10.1038/s43016-021-00275-z

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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