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263. NASA、人類による活動が地球のエネルギー収支を改変しているエビデンスを確認
国際社会は、産業化以来の気温上昇をできる限り1.5℃以下に抑えるために、温室効果ガスの排出を抑制するための行動を起こすことが求められています。人類による経済活動に伴う温室効果ガスは気候変動にどのような影響を及ぼし、またその予測やモニタリングはどのように行われているのでしょうか。
2021年3月、NASAは、人類による活動が、太陽光からのエネルギーが宇宙空間に放出されているのを妨げており、地球のエネルギー収支(energy budget)を改変していることを確認したと発表しました。
地球は、常に太陽光からのエネルギーの流入と放出の均衡を保とうとしています。太陽光からのエネルギーは地球の表面や大気から反射して宇宙空間に放出されますが、残りは吸収され、あたかも晴れた暑い日にアスファルトが熱する状況と同様に地球を暖めます。最終的にはこうした熱も宇宙空間に放出されますが、大気中の雲や温室効果ガスに阻まれて再吸収され地上を暖めることが生じます。人為的な経済活動により、温室効果ガスが蓄積されていくことで、本来は宇宙空間に放出されるべきエネルギーが地球に吸収されることで、温暖化が生じるとされます。人為的な活動が気候に影響を及ぼすこのプロセスを放射強制力(a radiative forcing)*と呼びます。
気候変動モデルは人類の活動が温室効果ガスを排出し、地球のエネルギー収支に影響を及ぼしていると予測します。今回、NASAの研究は、初めて放射強制力が人類の活動によって上昇し、地球のエネルギー収支を通じて気候変動を引き起こしていることを実際の観察によって確認したそうです。研究者らは、地球のエネルギー収支の不均衡を、水蒸気・雲・気温・アルベド (太陽の光を地球が反射する割合)などの自然的要因を差し引いて、人為的な放射強制力を計算、2003-2018年に、発電、輸送、製造業などによる温室効果ガスを要因として、1平方メートルあたり0.5ワットの放射強制力を引き起こしたとしました。またこの方法は、モデルに基づくよりも早い推計が可能で、リアルタイムで実測データに基づく計算をもとに放射強制力のモニターを可能にし、より信頼しうる気候変動の予測を可能にするとのことです。
*Wikipediaによると、放射強制力(ほうしゃきょうせいりょく)とは、気候学における用語で、地球に出入りするエネルギーが地球の気候に対して持つ放射の大きさのこと。正の放射強制力は温暖化、負の放射強制力は寒冷化を起こす。
参考文献
NASA. Direct Observations Confirm That Humans Are Throwing Earth's Energy Budget off Balance. By Sofie Bates, NASA’s Earth Science News Team. March 25, 2021. https://climate.nasa.gov/news/3072/direct-observations-confirm-that-hum…
(文責:研究戦略室 飯山みゆき)