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200. 人間開発と人新世 - 人類はいかに地球に影響を及ぼしているか

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コロナ禍は、人類の活動が地球に大きな影響を及ぼしていることを示しました。地球への多大な負荷をかけずに、人間開発の改善を達成している国はありません。しかし、我々はこの問題の解決にとりくむ最初の世代となって、人間開発の新たなフロンティアを切り開くことも可能です。

国連開発計画(UNDP)は、2020年12月、人間開発報告書の30周年を記念して、「人間開発と人新世」報告書を公表しました。UNDPは、人間開発は地球と競合するのではなく共存するものでなければならないとし、社会規範・価値・政策や金融的なインセンティブの必要性を説きます。例えば、2100年までに、世界の貧困国は気候変動によって、毎年の極端気象日が今よりも年間100日間増えるとされていますが、パリ協定が完全に履行されればその日数を半減することは可能です。

人新世(the Anthropocene) とは、人類が地球の地質や生態系に重大な影響を与える発端を起点として提案された想定上の地質時代を指します。人間開発は人類の自由と選択肢の拡大を可能にしますが、しばし経済開発優先は森林破壊を伴ってきました。30年前に定義された人間開発コンセプトは、近視眼的な開発概念を覆すことを目的としていましたが、多くの国にとって、問題はパイの大きさ(the overall size of the pie )ではなく一切れの相対的な大きさ(the relative size of its slices)に関心が移ってきています。さらに、オーブン(the oven-パイを作り出す仕組みー地球の機能のことか)への懸念も生じています。我々は未だかつていない人新世の課題に直面していると言えます。今や、人々の望むような生活を可能にする選択肢を拡大すればよいというものではなく、意思決定への参加能力と選択肢の価値・望ましさ、とりわけ地球・自然との関係に注意を払う必要があります。人々と地球を切り離すのではなく、社会環境システムにおける相互関係に注意を払わなければなりません。人類の自由拡大と地球への圧力緩和を両立する必要があり、そのために社会規範価値観・誘引と規制・自然にもとづく人間開発のための変化を可能とするメカニズムが必要です。

報告書では、各国の保健・教育・生活水準の統合指標である人間開発指標(Human Development index)に、各国の二酸化炭素排出とその物質的なフットプリントを考慮した新たな指標(プラネタリー圧力補正済みHDI -Planetary pressures-adjusted HDI; PHDI)を提案しています。PHDIはHDIを各国の一人当たり二酸化炭素排出水準と物資的フットプリントで調整しています。低所得国では、この調整のインパクトは小さいものですが、高所得国では開発の地球へのインパクトに応じて調整は比較的大きいものとなっています。

例えば、日本はHDI 0.919でイスラエル・リヒテンシュタインと並び19位にランクしていますが、PHDIは0.871でランクとしては2つアップします。アメリカはHDIは0.926で17位ですが、PHDIは0.719で45ランク下がります。HDIで31位のUAE、45位のカタールは、化石燃料産出国ですが、PHDIでは80ランク近く下がります。低・中所得国はHDIも低ランクですが、PHDIとのランク差は殆どないケースが殆どです。

参考文献

UNDP Human Development Report 2020. The Next Frontier  Human Development and the Anthropocene http://report.hdr.undp.org/,  http://hdr.undp.org/sites/default/files/hdr2020.pdf

UNDP https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/presscenter/pressreleases…

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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