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1259. 地球規模のメタン収支

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1259. 地球規模のメタン収支

 

地球規模のメタン(CH4)は、気候強制力という点では二酸化炭素(CO2)に次いで2番目に重要な人為的に排出される温室効果ガスです。CH4の排出量と大気中濃度は、一時的な減少の後、2007年以降増加し続けています。観測された大気中濃度増加の要因を定量化する上での2つの大きな課題は、地理的に重複する多様なCH4発生源と、短寿命で非常に変動しやすいヒドロキシラジカル(OH)によるCH4の破壊の規模と時間的変化に不確実性が伴うことから生じています。

CH4収支を理解し定量化することは、気候変動を緩和するための現実的な経路を評価する上で重要です。これらの課題に対処するため、多分野の科学者からなるコンソーシアムが、全球メタン収支を定期的に更新し、メタン循環に関する新たな研究を促進しています。

2025年版は、2010~2019年の10年間における世界のCH4排出量を、トップダウン解析にもとづき、575 Tg/年(範囲は553~586)と推定しています。この量のうち、369 Tg/年(約65%)は化石燃料、農業、廃棄物および人為的バイオマス燃焼といった直接的な人為的発生源に起因します。2000~2009年の期間については、総排出量が2010~2019年よりもわずかに少なく、32 Tg/年でした。2020年の排出率は2000~2020年の期間で最高となり、608 Tg/年に達し、2000年代の平均排出量より12%高い値でした。

2010~2019年については、農業と廃棄物による排出量は、トップダウン・アプローチおよびボトムアップ・アプローチでは、それぞれ、228Tg CH4/年、211Tg CH4/年と推定されました。ボトムアップ値では、農業と廃棄物部門は直接的な人為的排出量全体の60%を占めています。農業からの排出量は144 Tg CH4/年で、直接的な人為的排出量の40%を占め、残りは化石燃料部門(34%)、廃棄物(19%)、バイオマス(5%)およびバイオ燃料(3%)の燃焼に由来しています。

農業と廃棄物カテゴリーには、畜産(反芻動物の腸内発酵および堆肥管理)、稲作、埋立地、および廃水処理に関連するCH4排出が含まれます。これら活動のうち、世界的にほとんどの国において、畜産が圧倒的に最大のCH4排出源(112 Tg CH4/年、世界の人為的排出量全体の約3分の1)であり、次いで廃棄物処理(推計値平均69 Tg CH4/年、約19%)と稲作(32Tg CH4/年、約9%)が続きます。ここ数十年における稲作からのCH4排出量の減少は、ほとんどのインベントリで確認されており、稲作面積の減少、農業慣行の変化、そして1970年代以降の稲作の北方へのシフトが要因と考えられています。

論文は、CH4収支の改善に向けたデータ・モデル改善の一環として、異なる排出生態系の分類に基づき、CH4を排出する飽和土壌および浸水地域の全球高解像度地図の作成、人為的超放出源(主に石油およびガス部門だが、石炭、農業、および埋立地も含む)に関するボトムアップインベントリの情報を使用した発生源特定の改善、等を含む提言を行いました。

 

(参考文献)
Marielle Saunois et al, Global Methane Budget 2000–2020, Earth System Science Data (2025).
https://essd.copernicus.org/articles/17/1873/2025/


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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