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201. 気候変動対策としての肉消費削減は、開発途上国では異なるアプローチが必要である

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近年、気候変動分野において、家畜生産が温室効果ガス排出源として注目を浴び、肉類を含む動物性食品消費を減らすことが気候変動対策の一つとして捉えられています。

国際熱帯農業センター(CIAT)と国際家畜研究所(ILRI)の研究者らは、Environmental Research Letters誌で公表された論文にて、気候変動対策としての肉類を含む動物性食品消費削減の提言は、先進国を除く開発途上国では該当しない場合もあると注意を喚起しました。開発途上国おいては未だに肉類の消費は少ない一方、家畜生産が農民の所得・栄養、また土壌肥沃度改善にも貢献する余地は大きく、家畜消費・生産の貢献を高めるためのデータ収集と研究の重要性を訴えました。

論文によると、アフリカはウシ・羊・ヤギの20%、27%、32%を占めますが、1945年来の家畜研究文献においてアフリカを研究対象とした文献は13%しかありません。家畜研究所のトップ10の多くが先進国にあり、アフリカに本部があるのは2組織のみです。著者らは、家畜生産による負の環境インパクトのみを強調する単眼的なアプローチは、開発途上国において家畜が果たすエコシステムサービス・所得・資産・保険としての役割を無視していおり、途上国の耕畜連携システムにおける環境持続的な側面も研究対象とされるべきと主張しました。例えば、欧州では商業的家畜生産からの過剰な堆肥が環境問題を引き起こしていますが、サブサハラ・アフリカでは堆肥は土壌肥沃度を維持し作物生産性の向上に重要な役割を果たしています。途上国では飼料生産はローカルに行われていますが、商業的システムではブラジルのような大豆生産国で加工された飼料が地球の反対側に輸出されるというフットプリントを伴っています。

著者らは家畜システムが温室効果ガス排出源であったとしても、低・低中所得国での緩和戦略策定には、そのためのデータの必要性と飼料改善・耕畜連携システムの改善を通じた農民・環境双方を利するシステムの必要性を訴えました。

国際農研では、開発途上国における家畜生産からの温室効果ガス排出に関するベースラインデータの整備や、より効率的な飼料生産技術の開発耕畜連携システムの改善に関する提言を行っています。

参考文献

Birthe Katharina Paul et al, Sustainable livestock development in low and middle income countries - shedding light on evidence-based solutions, Environmental Research Letters (2020). DOI: 10.1088/1748-9326/abc278

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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