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239. フードシステムによる生物多様性喪失へのインパクト

 

2021年2月、イギリスのシンクタンクChatham Houseが、「フードシステムによる生物多様性喪失へのインパクト」報告書を公表しました。  


世界中で生物多様性喪失は加速化し、過去1000万年の平均値を遥かに超えるスピードで種の滅亡が進行しています。グローバル・フードシステムがこのトレンドの背景にある最大の要因です。過去半世紀、我々のフードシステムは「食料をより安く」供給するためのパラダイムに支配されてきました。集約的な農業生産は土壌・エコシステムの劣化により土地そのものの生産能力を低下させています。カロリー需要を安く満たすための資源投入型食料の生産は、化学肥料、殺菌剤、エネルギー、土地、水、そしてモノカルチャーや過剰耕起といった非持続的な慣行に過度に依存し、鳥類・哺乳類・昆虫・微生物の生息域を破壊し、多くの植物種を締め出してきました。主要な温室効果ガス排出の一つでもある我々のフードシステムは、気候変動によって既存の生息域環境を劣化させることで、生物種を別の地域に追いやっています。生物種同士の接触と競争は、感染症の出現に繋がる機会を生み出しています。


フードシステムの変革なしに、生物多様性喪失は加速してしまうでしょう。エコシステムと生息域が破綻すれば、人類の生存を維持することさえ不可能になります。フードシステムの変革には、次の3つの梃(てこ、levers)を利用すべきです。


第一に、動物性食品生産が生物多様性・土地利用・環境へ与える過剰な負荷を踏まえ、世界の食生活パターンは植物性食品を中心としたものに収束していくべきです。このようなシフトは、人々の健康にも有効であり、パンデミックのリスクを削減します。フードロスの大幅な削減も、土地を含む資源への圧力を軽減することができます。


第二に、自然保護のためにより多くの土地が保全されるべきです。農業拡大のための土地転換を抑止することが生物多様性を保護する最善の方法です。

第三に、化学肥料などの投入を削減し、モノカルチャーを多様な作物システム慣行に転換することで、自然・生物多様性と親和的な農法を採択すべきです。

2021年は、国連食料システム・サミットの開催も予定されており、栄養改善・公衆衛生・環境持続性を向上するためのフードシステム変革においてまたとない機会を提供してくれています。 また、COVID-19パンデミックからの経済復興支援のために、「グリーン・リカバリー」へのモーメンタムとかつてない規模の財政措置がとられています。こうした持続性・公平性・社会的強靭性を向上する機会を念頭に、報告書は次の提案を行っています。


意思決定責任者は、供給・需要の相互依存性を認識すべきです。資源過剰投入型農業と作物・放牧地転換のための土地利用変化をもたらしてきたシステムの悪循環を断ち切る上で、食生活の変化とフードロスの削減は決定的な役割を果たします。これを踏まえ、国連食料システム・サミット関係者は、国連気候変動交渉などの国際意思決定プロセスにおいて、フードシステム・アプローチの採用を訴えていく必要があります。また国際レベル・各国の意思決定の間での一貫性を強化し、グローバルなコミットメントを各国現場での実践に取り入れる必要があります。このために、国レベルにおいて、生物多様性の価値を理解し、生物多様性保全を支援するアカウンティング制度の確立が必要です。責任ある投資、食生活の変化、自然保護と紐づいた気候変動緩和対応策などのグローバルな政策ガイドラインは、国レベルでのアクション・プランの策定への指針を与えることで、国際協調を通じてグローバル・フードシステム転換を実現することが期待されます。


国際農研は、世界の農林水産業の研究や技術開発に関する情報を、研究者、行政機関、民間企業等に広く提供するため、国際機関、先進国機関の農林水産研究開発に関する動向に関する情報提供も行っています。 2021年は、国連食料システム・サミット東京栄養サミットなど、世界の食料安全保障の技術開発の方向性・戦略を決定する重要なイベントが予定されています。国際農研は今後も、最新の国際議論の動向について情報提供を行っていきます。

参考文献
Benton T et al. Food System Impacts on Biodiversity Loss. Three levers for food system transformation in support of nature RESEARCH PAPER 3 FEBRUARY 2021 ISBN: 978 1 78413 433 4 https://www.chathamhouse.org/2021/02/food-system-impacts-biodiversity-l… 

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)