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887. 気候変動と生物多様性喪失:グローバルヘルスの緊急事態 

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887. 気候変動と生物多様性喪失:グローバルヘルスの緊急事態 

10月25日、The BMJ, The Lancetなどの著名な医学誌を含む200以上の学術誌の編集長らが共同で論考を発表、国連・政治家・専門家らに対し、気候危機および生物多様性喪失の問題をグローバルヘルスの緊急事態として一体的にとらえ、災厄回避のために緊急に対応する必要性を訴えました。 その内容を紹介します。

国際社会は気候危機と自然の危機をあたかも別々の課題であるかのように対応していますが、これは危険な過ちと言えます。もうすぐドバイで開催予定のCOP28に対し、2024年にトルコで生物多様性COP16が開催されることになっています。二つのCOPにエビデンスを提供する科学者のコミュニティは、適応不全を回避し社会的な便益を最大化するには、気候変動と生物多様性をバラバラに捉えるのではなく、複雑だが一つの問題を構成する要素として一体的に取り組む必要性を訴えました。

プラネタリー・ヘルス概念の構築にあたり、保健医療の世界では、自然界における構成要素間の相互作用 - 一つのサブシステムへのダメージがその他のサブシステムへのフィードバックを伴う ― についての認識が高まっています。例えば、干ばつ・山火事・洪水・地球温暖化その他の影響は、植物の生育を脅かし、土壌浸食をもたらし、カーボン貯留を妨げることを通じ、さらなる地球温暖化をもたらしかねません。気候変動は、森林破壊や土地利用変化を上回る自然喪失の最大の要因になりつつあります。

自然はもともと驚くべき回復力を有しています。例えば森林破壊後も自然に森林は再生しますし、カーボン貯留に貢献する海洋の植物プランクトンは8日ごとに光合成によって10億トンものバイオマスをうみだします。原住民による陸域・海洋の管理は、とりわけ自然の再生にとって重要な役割を果たしています。一つのサブシステムの回復はその他の回復にも有益です。例えば土壌への養分補充は大気からの温室効果ガス除去に貢献します。しかし一つのサブシステムに有益な活動はその他のサブシステムを攪乱する可能性もあります。例えば一種類の樹木の植林は大気中の二酸化炭素除去には役立ちますが、健全なエコシステムに欠かせない生物多様性に負の影響を及ぼしかねません。

人類の健康は気候危機および自然の危機の双方からダメージを受けます。地球の危機は、土地・シェルター・食料・水不足、そして貧困悪化がもたらす移民や紛争を伴う社会経済システムの攪乱の結果、人類の健康に大きなインパクトをもたらします。温暖化を1.5℃以下にとどめたとしても、自然破壊によって我々は甚大な健康被害をこうむります。気候変動や生物多様性喪失の負の健康インパクトを最も被るのは、最も脆弱なコミュニティであり、格差は環境危機を悪化させます。環境の危機および社会・健康格差は共通の原因で悪化することから、同時に解決を図ることでコベネフィットが期待されます。

気候変動・生物多様性のCOPにおけるコミットメントが達成されなければ、エコシステムが崩壊し、自然の機能を崩壊させかねない不可逆的な変化を引き起こす「転換点・臨界点“tipping points”」がもたらされ、世界的に災害級の健康被害が生じかねません。

論考は、気候変動と生物多様性の締約国会議に対し、現在の危機を世界的な保健の緊急事態であることを認識し、国ごとの気候変動対策と生物多様性保全対策の統合を推し進める必要性を訴えました。


(参考文献)
Editorials: Time to treat the climate and nature crisis as one indivisible global health emergency
BMJ 2023; 383 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.p2355 (Published 25 October 2023)
Cite this as: BMJ 2023;383:p2355

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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