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999. 気候変動・生物多様性喪失・感染症発生の因果関係

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999. 気候変動・生物多様性喪失・感染症発生の因果関係

 

今日、世界は気候変動・生物多様性喪失・感染症発生の3つの危機に直面しています。気候変動・生物多様性喪失・感染症発生の関係は、時にお互い牽制し、時に補強しあい、フィードバックループを通じて連鎖的な影響をもたらします。The Lancet Planetary Health誌に公表された論文は、地球が直面する危機を解決するうえで、因果関係を理解する重要性を説きました。

現在、我々は極めて深刻な地球システムの変化に直面しています。気候は過去12万5000年で最も温暖化し、異常気象の頻度は増え、世界平均気温はすでに1850-1900年の平均値の1℃を超え、近い将来1.5-2℃に達しかねません。自然生息地は次第に分断され、手つかずの自然はどんどん縮小しています。気候と自然生息地の変化は、種の分布のシフトをもたらし、生態学的コミュニティの構成を変えることで、100万種が絶滅のリスクに直面しています。同時に、野生動物・家畜・植物・ヒトの間で感染症の発生と蔓延の頻度が増しています。こうした環境変化の背景に、環境汚染、森林破壊、農地拡大、といった人為的要因が指摘されています。しかし、3つの危機全ての相互作用に関しての考察は殆ど行われてきませんでした。

既存の研究では、3つの危機のうち、二つ・ペアの相互作用メカニズムについては理解が進んでいます。IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書が示すように、生物多様性と気候変動の関係については、共通の原因と反応を同定し、政策策定・解決に活かすための取り組みが進んでいます。また、感染症と生物多様性、そして感染症と気候変動の強い相関関係についても近年理解が深まってきています。この分析を拡張し、生物多様性―気候変動と、ヒト・家畜・野生動物・植物の感染症の間の因果関係を分析する必要性が高まっています。

気候変動・生物多様性喪失・感染症発生の因果関係を分析する際に、影響が及ぶスケールのミスマッチ・データ不足・手法など多くの課題があります。とくに、気候変動は生物多様性と感染症の双方に影響を及ぼしますが、生物多様性と感染症の気候変動への影響は、少なくとも人新世を定義する時間スケールでは軽微なケースも多く、見逃されることが多いようです。例えば、生物多様性や感染症蔓延の変化は、コミュニティや集団を対象に測定され、時間軸は数か月から数年、空間軸はメートルからヘクタールといったスケールで観測されます。これに対し、気候変動は空間的・時間的スケールが大きく、生物が経験する微気候に気候変動を落とし込んで分析する複雑さを伴います。危機が異なるスケールで相互作用をするのであれば、一つのスケールに着目してもインパクトの全体像はつかめません。

しかしながら、異分野連携を通じ、ヒト・家畜・野生動物・植物・環境に関する科学の知を統合することで得るところは大きいと考えます。気候変動・生物多様性喪失・感染症発生の因果関係を分析することで、一つの危機への対応がその他の危機の状況を悪化する可能性を回避し、潜在的なコベネフィットを実現するシナリオを描くことができると期待されます。


(参考文献)
Alaina Pfenning-Butterworth et al, Interconnecting global threats: climate change, biodiversity loss, and infectious diseases, The Lancet Planetary Health (2024). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2542519624000214?via…;

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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