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247. 低・中所得国における急激に変化する食の選択

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過去1世紀にわたり、世界のフードシステムは、人口動態や都市化、食料生産の増加、貿易や流通の拡大等に応じて、劇的な変化を遂げてきました。農業・栄養・健康分野の関係者にとって、今後数十年間にわたる最大の課題は、持続的で健康な食を実現していくための政策を策定していくことにあります。この上で、様々な場面において個人や世帯がいかに食に関する意思決定を行うかについての知識が必要となります。食の選択は常に合理的で内省的とは限らず、日々の生活における様々な要因に左右されます。食の選択に影響を及ぼす要因への理解を深めることで、適切な政策提言につなげることができます。

Global Food Security誌において、低・中所得国における急激に変化するフードシステムと食の選択を考察した論文が公表されました。 低・中所得国において予測されている人口増・都市化・経済成長は、食料需要の質・量の変化を伴い、フードシステムに大きな影響を及ぼすことが見込まれています。経済成長に伴い外食・中食の機会が増加し、また、女性の社会進出や核家族への移行による生活様式の変化は食事習慣の変化を伴います。食の選択肢も、伝統にもとづくもの、または単にエネルギー源であった段階から、次第に所属する社会層のアイデンティティの影響も受けるようになっていきます。

社会やマーケティング、所得増など食をとりまく環境の変化は栄養摂取の変化に影響を及ぼします。安価で入手しやすく魅力的な食品は、しばし、エネルギー超過で栄養に貧しく、消費者の手間をかけずに食することが可能です。食環境の変化は栄養に富んだ伝統的食事から、飽和脂肪酸、ナトリウム、精製炭水化物、動物性食品等を多く含む食習慣への移行をもたらします。こうした変化は、食の多様化(他の気候条件で育つ野菜や果物へのアクセス向上)という望ましい影響、心血管疾患リスクを高める負の影響、の両側面を持ちます。多くの低・中所得国において、負の影響を伴う食変化は、微量栄養素不足などの慢性的な栄養失調に加え、非感染症疾患などの食習慣関係の栄養問題の悪化という、二重負荷の状況に陥りやすいとされています。

最近のPick Up記事でも述べたように、低・中所得国の経済成長に伴い動物性食品への需要増の予測を踏まえながら、こうした国・地域において健康と福祉を最大化しうる食事習慣の展開を保障していく必要があります。 国際農研は、また、タイ、ラオス、中国等のアジア地域において、高品質で機能性に優れた食料資源の活用を目指し、高付加価値化につながる特性解明と技術開発を行っています。

 

参考文献

Christine E. Blake, et al. Elaborating the science of food choice for rapidly changing food systems in low-and middle-income countries, Global Food Security, Volume 28, 2021, https://doi.org/10.1016/j.gfs.2021.100503.

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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