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242. パリ協定達成に向けた気候変動対策と公衆衛生の相乗効果

 

温暖化を2℃よりも十分低い水準にとどめることを目標としたパリ協定に向け、各国は、自国が決定する貢献(NDC:nationally determined contribution)の具体化に向けて準備を進めています。しかし現在提案されているNDC路線ではパリ協定の目標を達成できないとされおり、健康向上の視野も加えてより野心的なゴールを設定する必要があります。2021年2月、The Lancet誌に掲載された論文は、9つの代表国(ブラジル、中国、ドイツ、インド、インドネシア、ナイジェリア、南アフリカ、イギリス、アメリカ)を事例としたモデル分析に基づき、パリ協定達成に向けた気候変動対策と公衆衛生の相乗効果(co-benefit/コベネフィット) を示しました。

論文は、エネルギー、食料・農業、輸送セクターを対象に、2040年までの規定のNDCs路線に対し、パリ協定と持続可能な目標(SDGs)達成に向けた持続的シナリオと、さらに健康向上を中心に添えたシナリオを想定し、大気汚染・不健康な食事・運動不足活動に起因する死亡リスク削減の相乗効果について分析しました。既定路線に比べ、持続的シナリオでは、9か国において2040年までに、大気汚染関連で118万人、不健康な食事由来の586万人、運動不足による115万人、の死亡を回避しうるとしました。健康向上を中心に添えたシナリオでは、さらに大気汚染で46.2万人、食事関連で57.2万人、運動不足で94.3万人の死亡を回避することができるとします。

論文では(p.e79)、食料農業部門における緩和策は、果物や野菜の消費増加と赤身肉や加工食品の消費削減を通じ、より栄養に富む食事への移行により健康利益をもたらす、と論じられています。しかし健康・カーボン削減の利益の程度は、人々が所属する国・地域ごとのコンテクストと元々の健康状態に応じて大きく異なります。赤身肉に関しては、既に推奨以上の赤身肉を摂取している少数の国々に対し、必要量を大きく下回る量しか消費していない国も多いのが現状です。低所得・中所得国の経済成長に伴い動物性食品への需要増の予測を踏まえながら、こうした国・地域において健康と福祉を最大化しうる食事習慣の展開を保障していく必要があります。パリ協定も、各国・地域の事情に応じて、様々な食事習慣と介入の選択肢がありうることを認めています。 

国際農研は、マダガスカルやブルキナファソなど、途上国の作物生産および栄養供給と技術開発の評価活動から得られた知見に基づき、健康と持続性を同時に満たす政策介入の必要性について、情報発信を積極的に行っています。


参考文献

Hamilton I et al. (2021) The public health implications of the Paris Agreement: a modelling study. The Lancet Planetary Health. https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(20)3024…

(文責:研究戦略室 飯山みゆき・白鳥佐紀子)