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775. 国際植物防疫デー

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775. 国際植物防疫デー

我々の食料は作物に大きく依存していますが、グローバルな人やモノの移動の展開に伴って、植物病害虫も世界に拡散してきました。外来病害虫は生物多様性喪失の主要因であり、我々の地球を支える繊細な生物のネットワークを脅かしています。病害虫はまた、気温上昇により新たな生息可能となった環境 を見出すことで拡散することが知られています。その結果、殺虫剤や殺菌剤の使用が増えることで、花粉媒介者や天敵、健全な環境にとって重要な生物を脅かします。

2022年3月の国連総会において、毎年5月12日を国際植物防疫デー(International Day of Plant Health:IDPH)とすることが決まりました。国際植物防疫デーの目的は、植物病害虫のまん延を防止することの重要性について世界的な認識を高めることです。

5月2日にNature誌で発表された論説によると、国連食糧農業機関(FAO)によって人類の栄養に重要としてリストアップされた168の作物に対し、数百もの菌類病(真菌類や卵菌類を含む広義の菌類による病気)が影響を及ぼしています。殺菌剤の使用や抵抗性品種の栽培にもかかわらず、世界の生産者は毎年10-23%の作物を収穫前の段階で、さらに10-20%を収穫後の段階で菌類病によって喪失していると推計されています。実際に、イネ、コムギ、トウモロコシ、ダイズ、ジャガイモというカロリー面で最も重要な5大作物は、それぞれイネいもち病(rice blast)、コムギ黒さび病(wheat stem rust)、トウモロコシ黒穂病(corn smut)、ダイズさび病(soybean rust)、ジャガイモ疫病(potato late blight、卵菌類による病気)の影響を受けています。そしてこれらの菌類病による損失は、一日の必須カロリーを2,000カロリーと計算すると、6億~40億人分の食料供給に匹敵するとの推計もあります。このような損失は、温暖化する世界でさらに増加することが予測されています。論説は、世界の作物に対する菌類病の脅威についての認識を高め、作物病害分野の研究への投資を呼びかけました。

 

国際農研では、ダイズさび病による経済的損失を軽減し、ダイズの安定的生産に寄与するため、海外の研究機関と協力してダイズさび病の病原菌の分析や抵抗性品種の開発、抵抗性品種の導入効果に関する研究を実施しています。また、イネいもち病防除のための国際判別システムを開発しました。

加えて、世界的に問題となっている越境性害虫であるサバクトビバッタ、イネウンカ類およびツマジロクサヨトウの常発国において、それらの生態に基づく効率的で環境負荷が小さい防除技術を国際機関等と連携し開発しています。

 

(アイキャッチ写真)さび病が発生している試験圃場の感受性品種(左);抵抗性育成系統(右)。同じ熟期の系統ですが、左が若干黄化している。

 

(参考文献)
Eva Stukenbrock et al, Address the growing urgency of fungal disease in crops, Nature (2023). DOI: 10.1038/d41586-023-01465-4

 

(関連するページ)
国際農研における病害防除研究に関連するページ

レジリエンス強化作物とその生産技術の開発【レジリエント作物】https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/b1
562. パラグアイで開発したダイズさび病抵抗性新品種の特性https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220621
532. バングラデシュにおけるさび病菌の病原性の変化https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220510
499. イネいもち病に対する判別システムの普及と利用https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220317

国際農研における害虫防除研究に関連するページ
生態に基づく越境性害虫の環境調和型防除体系の構築【越境性害虫】https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/b3
156. 稲作の収量減の元凶、ウンカの発生を食い止めたいhttps://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20201020
401. サバクトビバッタの特異な繁殖行動を解明 -農薬使用量の減少に繋がる効率的な防除が可能に-https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20211019
655.インドシナ半島を中心とするツマジロクサヨトウの殺虫剤感受性モニタリングネットワーク構築に向けてhttps://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20221110

 

(文責:食料プログラム 中島 一雄、生物資源・利用領域 小原 実広・山中 直樹・柏 毅、生産環境・畜産領域 小堀 陽一、情報広報室 加藤 雅康、情報プログラム 飯山 みゆき)

 


 

ダイズさび病罹病葉

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