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30. 越境性病害虫と国際植物防疫年 ― ツマジロクサヨトウ(fall armyworm)

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行によって、われわれ人間の移動は大幅に規制されており、特に国境を越えた移動は難しい日々が続いています。一方、長距離移動能力を有する越境性病害虫に国境はありません。昨年からアフリカ東部を発生源として始まったサバクトビバッタの大発生は、日本の国会でも取り上げられたところです(詳細は、Pick Up-2をご参照ください[1])。また、ヨトウムシなどと同じチョウ目の害虫であるツマジロクサヨトウ(英名fall armyworm: FAW、学名Spodoptera frugiperda)も、近年、その分布域を大幅に拡大している世界的な越境性害虫です。

ツマジロクサヨトウは、南北アメリカ原産の農業害虫で、トウモロコシ、ソルガム、サトウキビ、野菜類等、80種類以上の作物に被害を与えること、1世代で500km、1晩で最大100km移動するなど長距離飛翔することが知られています[2]。もともとアメリカ大陸のみで問題となっている害虫でしたが、2016年にアフリカ大陸に侵入した後、1年間で同大陸ほぼ全域に急速に拡散しました。2018年に実施された調査結果から、アフリカ大陸におけるトウモロコシの減収量は最大で年間1770万トンにも及ぶと推定されています[3]。また、昨年はアジア大陸を踏破し、7月には日本にも到達しました。日本では、2019年末までに西日本を中心とする21府県で発生が確認されています[2]。

加えて、2020年5月5日付の報道では、今年1月にオーストラリアにも侵入し、その生息域を急速に拡大している、とのことです[4]。昨年、オーストラリアでは、平均降水量が観測史上最も少ない一方、平均気温が過去最高となるなど、火災が発生・拡大しやすい気候条件が揃った年となり、森林火災による大きな被害が発生しました。気候変動に起因すると思われる自然災害に加えて、越境性害虫であるツマジロクサヨトウの侵入も受けたことになります。また、地球規模の温暖化により、越境性害虫の発生地域が高緯度地域に拡大しやすくなることで、発生量の増加、発生期間の長期化が予想されます。このような問題は、新型コロナウイルス対策同様、ひとつの国で解決することは不可能であり、国際協調が不可欠です。

今年は、植物病害虫のまん延防止に向けた取組の重要性に対する世界的な認識を高めることを目指す「国際植物防疫年」です(詳細は、[5]をご参照ください)。国際農研でも、これまでに、JIRCAS国際シンポジウム2019「植物の越境性病害虫に立ち向かう国際研究協力〜SDGs への貢献」を開催するとともに[6]、越境性植物病害虫の研究連携に関する国際ワークショップ参加[7]などの活動を行いました。今後も、国際機関等との協力を通じ、越境性病害虫の問題解決に向けたコーディネートを担うべく、研究と情報発信を続けてゆきます。

 

参考文献

1. https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200308_0

2. https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/keneki/k_kokunai/tumajiro.html

3. http://www.fao.org/fall-armyworm/background/en/

4. https://www.aap.com.au/destructive-pest-worm-threatens-aust-crops/

5. https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/keneki/iyph/iyph.html

6. https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2019/r20191128_0

7. https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2019/r20191129_0

 

(文責:生産環境・畜産領域 小堀陽一)

Fall armyworm larva

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