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532. バングラデシュにおけるさび病菌の病原性の変化

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532. バングラデシュにおけるさび病菌の病原性の変化

バングラデシュは日本と同じ様に大豆の国内自給率は低いですが、近年の需要増大によって国内の大豆生産は拡大しています。バングラデシュの大豆の収量は2 t/ha以下と非常に低く、その大きな原因の一つが熱帯・亜熱帯地域の大豆生産において深刻な影響を及ぼしているダイズさび病です。化学殺菌剤は、ダイズさび病防除の主要な方法ですが、さび病菌の殺菌剤耐性株が主要なダイズ栽培地域である南米で問題になっています。また、化学殺菌剤の多用による環境への有害性は広く知られています。2021年5月、農林水産省が策定した、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」でも、化学農薬の低減等の環境負荷軽減に取り組むことが目標の一つになっています。そのため、抵抗性品種の導入による経済的かつ環境に優しい防除を導入していく必要があります。そこで、バングラデシュで発生しているさび病菌に安定して有効なさび病抵抗性を明らかにするため、大豆圃場発生しているさび病菌サンプルの抵抗性遺伝子に対する病原性を調べました。

既知の7つのさび病抵抗性遺伝子(Rpp1~Rpp6, Rpp1-b)をそれぞれ持つ品種と抵抗性遺伝子を持たない感受性品種、国際農研の育成した3遺伝子を集積した系統(Rpp2+Rpp4+Rpp5)のさび病判別品種12品種に、バングラデシュの大豆圃場から2018年と2019年に採集したさび病菌サンプル合計34点を接種してその病原性を評価しました。また同様に評価した2016年のさび病菌サンプルと比較しました。

2016年のさび病菌サンプルの殆どがダイズPI 587886の持つRpp1、およびRpp2Rpp6にしか病原性を示さなかったのに対し、2018年と2019年の殆どのさび病菌サンプルはRpp3、Rpp5、Rpp1-bにも病原性を示し、病原性が非常に高くなっていました。また、調査した7つの抵抗性遺伝子全てに病原性を示す、強病原性のさび病菌サンプルも見つかりました。しかしながら遺伝子集積系統は全てのバングラデシュのさび病菌に抵抗性となり防除に有効なことが示されました。

ダイズさび病菌にとって好適な高温多湿のモンスーンアジア地域では、さび病は容易に越境して被害を拡大します。病原性や殺菌剤抵抗性を継続的にモニタリングすることは効果的なダイズさび病防除法の確立にとってとても重要になります。

本成果は、植物病理学の国際誌Plant PathologyにA major variation in the virulence of Asian soybean rust pathogen (Phakopsora pachyrhizi) in Bangladeshと題して発表されました。

 

(関連するページ)
ダイズさび病抵抗性大豆 2品種をパラグアイ共和国で品種登録  https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2019/r20190822

生物資源・利用領域の山中主任研究員が世界のダイズさび病研究の主要著者トップ10入り  https://www.jircas.go.jp/ja/reports/2020/r20200806

471. 世界への大豆生産の広まりと研究 https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220203

230. 病気に強い大豆をつくる https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20210210


(文責:生物資源・利用領域 山中直樹)
 

 

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