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520. 日本人が大好きなエビの養殖方法

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520. 日本人が大好きなエビの養殖方法

エビ(ここではクルマエビ類を指します)が大好きな日本人。2019年には23万トンを超えるエビを年間に消費 しており、国民一人あたりの消費ではアメリカに次いで世界第2位となっています。政府の統計によると、我が国に輸入されるエビのうち、約70%はベトナムやインドなど東南アジアや南アジア地域で生産されたものです。これらの国では、1980年代まで漁獲されたエビが輸出されていましたが、資源が少なくなったことから、1990年代以降では主に養殖による生産に変化しました。

2022年は「零細漁業と養殖の国際年」(The International Year of Artisanal Fisheries and Aquaculture;IYAFA 2022)です。IYAFA 2022は、小規模漁業と養殖業の役割に関する認識を高め、科学と政策の相互作用を強化し、関係者が行動を起こせるようにし、新しいパートナーシップを構築し、既存のパートナーシップを強化することを目的としています。今回のPickUpでは、一般的にあまり知られていないエビの養殖方法について、ご紹介いたします。

現在我が国への輸入エビの大半を占めるエビ養殖方法は、大まかに次の3つに区別されます。

粗放養殖:マングローブ林のような沿岸の一部に簡単な水路を儲け、満潮の時に水門を開け天然の稚エビ(子供のエビ)を養殖池に導入します。その後水門を閉じてエビを養殖します。エビは天然の餌を食べて育つため、生産性が低いものの低コストが特徴です。東南アジアで養殖が始まった初期の頃に、多く実践されていた養殖方法ですが、現在ではほとんど見ることがありません。

半集約養殖:粗放養殖を発展させた養殖形態です。粗放養殖では水路程度だったものが、半集約養殖ではマングローブ林に大きな素掘りの池が造成されます。このような池に、天然の子供のエビを朝夕によって導入して人工の餌をあたえて育てる場合と、人工的に生産した子供のエビを放流して、天然の餌でエビを育てる場合の二つがあります。

集約養殖:半集約養殖をさらに発展させた養殖方法です。人工的に生産した子供のエビを高い密度で放流し、大量の餌を与えてエビを育てます。エビ養殖の東南アジアの先駆者であるタイ王国では、現在エビ生産の約99%が集約養殖によるものといわれています。しかしながら、餌を大量に与えてエビを育てることから、生産性は高いものの水質などが悪化しやすく、環境負荷が高いことや病気がよく発生する養殖方法で、高リスク高リターンな養殖方法と言えます。

スーパーや市場で売られているエビのパッケージを見ただけでは、残念ながら生産国はわかってもどのような養殖方法で生産されたエビなのか、知ることはできません。しかしながら一つだけ間違いなく言えることは、国内外の生産者の皆さんが心を込めて養殖したエビということです。そのような思いを込めて、ありがたくエビを頂きたいと私は考えています。

国際農研の「生態系アプローチによる熱帯域の持続的水産養殖技術開発及び普及【熱帯水産養殖】」プロジェクトでは、東南アジアにおいて、利用されていない海藻類を活用し、エビなどの水産生物の養殖用飼料としての加工や量産化技術を開発するとともに、その有効性を検証しています。

参考文献
筒井功 他(2022)タイにおけるウシエビ養殖の収益性向上 前編 タイのエビ養殖事情と諸問題の解決方法 緑書房・養殖ビジネス743号

 

関連するページ

令和2年度国際農林水産業研究成果情報「ウシエビ養殖初期に⽷状緑藻と微⼩巻⾙を摂餌させることで収益性が向上する」https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2020_c09

JIRCAS Channel「筒井 功 雑草魂で挑む! 東南アジアのエビ養殖研究」

https://www.youtube.com/watch?v=-4Ckymu5Dy0

504. 気候変動の影響を受けるハイガイ養殖https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220325

497. ほとんど分かっていなかったカンボジアの海面小規模漁業を解明するhttps://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220315

484. 持続可能な食料システムにおける漁業と養殖業の役割https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220224

(文責:水産領域、筒井功)


 

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