Pick Up

504. 気候変動の影響を受けるハイガイ養殖

関連プログラム
情報

 

504. 気候変動の影響を受けるハイガイ養殖

国連総会は、2022年を零細漁業と養殖の国際年(The International Year of Artisanal Fisheries and Aquaculture;IYAFA 2022)と定めました。IYAFA 2022 は、小規模漁業と養殖業の役割に関する認識を高め、科学と政策の相互作用を強化し、関係者が行動を起こせるようにし、新しいパートナーシップを構築し、既存のパートナーシップを強化することを目的としています。本稿では雨季にタイの地まき式養殖漁場で発生したハイガイの大量死の事例を紹介し、ハイガイ養殖の安定化策を考えます。

カンボジアの国境から約50 km西のタイ南東部の沿岸に、広大なマングローブ林を有するウェル河口域があります。ここでは二枚貝類の餌となる植物プランクトンが豊富に発生するため、ハイガイの地まき式養殖が盛んです。しかし、雨季にウェル河口域の養殖漁場でハイガイの大量死が発生しました。そこで、国際農研では、タイ水産局チャンタブリー沿岸水産研究・開発センター等と協力して、その実態を研究しました。

その結果、大量死が発生した年の7月は例年の約倍になる降雨量があり、定期観測により漁場周辺の塩分濃度が通常の1/3以下になる低い状態が長期に及んでいました。また、同時期に漁場に生残するハイガイを採集して各種臓器の組織を光学顕微鏡で観察したところ、ハイガイの多くは産卵期を迎えていたものの消化管内は空で餌を捕食していない空腹状態でした。

これらのことから、ハイガイは低塩分の影響と漁場の餌不足もしくは自身の摂餌不良といった飢餓状態により死に至ったと推察されました。また、経年的な気象データから、この地方では7月に雨量が増加する傾向にあり、河口域では塩分が低下する時期が早まり、その状態が長期化しやすくなっていると考えられました。つまり、気候変動がハイガイの大量死に影響していると推察されました。

この海域でハイガイ養殖を持続的に行うには、餌となる植物プランクトンの発生状況に加えて塩分も重要な要素であり、植物プランクトンが充分に発生しつつ塩分濃度も安定している養殖漁場を新たに開発する必要がりあます。また、それが困難な場合は雨季と乾季とでそれらの条件に適した漁場を使い分けて養殖を行うといった対策が考えられます。

本成果は、国際誌Fisheries & Aquatic LifeにHistological observations of the blood cockle, Tegillarca granosa (L.), after a mass mortality event in Welu estuary, Thailand.と題して掲載されました。

 

(参考文献)
Yurimoto T, Chaweepack T, Matsuoka K and Sangrungruang K (2021). Histological observations of the blood cockle, Tegillarca granosa (L.), after a mass mortality event in Welu estuary, Thailand. Fisheries & Aquatic Life 29: 230-238, DOI:10.2478/aopf-2021-0025, https://sciendo.com/es/article/10.2478/aopf-2021-0025

(文責:水産領域 圦本達也)
 

関連するページ