平成24年11月28日、つくば国際会議場において若手外国人農林水産研究者表彰(農林水産技術会議主催)の表彰式典が挙行されました。式典には、選考を務められた委員を含め、多数が参加され盛大に行われました。
本賞は、開発途上地域のための農林水産業及び関連産業に関する研究開発に優れた功績をあげつつある若手外国人研究者を農林水産技術会議会長が表彰するもので、今回が第6回目です。受賞者と業績名は、次のとおりです。
受賞者と業績名(敬称略)
Dr. Sudisha Jogaiah
スディシャ ジョガイア
国籍:インド
所属:マイソール大学
業績:トウジンビエのベト病対策に関する研究(新規抗ベト病物質の解明とベト病抵抗性DNAマーカーの開発)
[業績概要]
トウジンビエは、高温及び乾燥などの不良環境に強い、インドとアフリカで先史時代から栽培される重要な雑穀の1つである。インドでは平均収量が2倍となる品種が開発され、導入されたが、同時にトウジンビエのベト病への罹患が大きな問題となった。受賞者は、トウジンビエのベト病への対策として、新規抗ベト病物質をキノコ(コフキサルノコシカケ)から単離すると共に、トウジンビエのベト病菌抵抗性を選抜するDNAマーカーの開発も成功した。さらに、植物免疫応答を活用したトウジンビエのベト病対策についても研究を進めており、今後、実用的なトウジンビエのベト病対策が進展し、不良環境下にある半乾燥地での農業への貢献が期待される。
Ms. Kanokwan Srirattana
カノックワン シラッタナー
国籍:タイ王国
所属:スラナリー工科大学
業績:家畜および絶滅危惧種の安定した増殖に向けた生物学的手法の改良
[業績概要]
受賞者は、タイにおいて、乳牛の体細胞クローン個体の作成に初めて成功するなど、体細胞クローン技術のリーダー的存在である。受賞者の研究は、体細胞クローン技術をタイ在来の牛などの家畜の増殖のために応用するに止まらず、絶滅危惧種(危急種)であるガウル(インドヤギュウ)や、マーブルキャットの保存に向け応用している。さらに、体細胞クローンにより作成した水牛や牛のクローン胚を分子生物学的に検討し、ミトコンドリアDNA及び遺伝子発現に関して、新しい知見を得ている。今後、これらの取り組みや知見が、家畜のみならず、絶滅危惧種の保存に貢献し、畜産業と生物多様性の保全につながることが期待される。
Dr. Lijun Yin
イン リージュン
国籍:中華人民共和国
所属:中国農業大学
業績:伝統食品の品質・機能性向上のための加工技術の開発と新たな乳化技術の適用による革新的処理システムの構築
[業績概要]
地域農産物や伝統食品には、多くの伝統的な知識が蓄積されている。これらの知識を科学的に解明すると共に加工工程の改善に応用し、その利用価値を高める取組は、特に急速な発展を遂げている新興国において、市場を介した農村の発展を促すために重要である。受賞者は、急速な工業化が進む中国において、豆腐、腐乳、豆鼓などの伝統食品を工業化するための技術開発を実施し、実用化に結びつけると共に、地域農産物である沙棘(サジー)からの機能性物質を生産する技術も開発した。さらに、新たに開発された乳化技術を応用することによる、脂溶性ビタミンの安定化技術を開発した。今後、これまでの研究成果や実用化の経験により、内外の研究者とネットワークが構築され、類似の食文化を有する東・東南アジアの伝統食品の発展に大きく貢献することが期待される。