2019年若手外国人農林水産研究者表彰報告

令和元年11月26日、つくば国際会議場中ホール200において若手外国人農林水産研究者表彰(農林水産省農林水産技術会議主催)の表彰式典が挙行され、開発途上地域のための農林水産業及び関連産業に関する研究開発に優れた功績を挙げた3人の若手外国人研究者が表彰されました。

若手外国人農林水産研究者表彰

令和元年11月26日、つくば国際会議場中ホール200(茨城県つくば市)において若手外国人農林水産研究者表彰(農林水産省農林水産技術会議主催)の式典が挙行されました。式典では、まず表彰式において、小林芳雄農林水産省農林水産技術会議会長の主催者挨拶、来賓の皆様の挨拶、選考委員会の岩元睦夫座長より審査経緯の報告をいただきました。引き続き、小林会長より表彰状が、岩永勝JIRCAS理事長より甕・JIRCAS賞(奨励金の目録)が受賞者に授与されました。

表彰式後に行われた受賞者講演では、受賞者により研究成果が発表され、つつがなく式典を終えることができました。

本賞は、開発途上地域のための農林水産業及び関連産業に関する研究開発に優れた功績を挙げた若手外国人研究者を農林水産省農林水産技術会議会長が表彰するもので、今回が13回目です。受賞者と業績名は、次のとおりです。

受賞者と業績名(敬称略)

受賞者名:Jacobo ARANGO MEJIA (ハコボ・アランゴ・メヒア)
国際熱帯農業センター(コロンビア)

業績名:温室効果ガス削減と地球温暖化対策のための熱帯イネ科牧草に関する研究

Jacobo ARANGO MEJIA

[業績概要]

気候変動の緩和は人類にとって極めて重大かつ困難な課題である。この気候変動という現象は既に農業生産及び食料安全保障上、多大な影響をもたらしており、今後さらに悪化すると予測されている。受賞者は、温室効果ガス削減を介した気候変動の緩和を目指して、ツール及び技術の開発に焦点を当てている。受賞者は、熱帯イネ科牧草が家畜生産による環境フットプリントを軽減する機構を実証するため、戦略的に研究を行ってきた。一つの具体例は、熱帯イネ科牧草であるBrachiaria属とPanicum属の生物的硝化抑制(BNI)能の活用である。BNIの概念は、国際熱帯農業センター(CIAT)との共同研究において国際農林水産業研究センター(JIRCAS)により、10年以上前に考案された。JIRCASとCIATの長期に及ぶ共同研究により、植物が根分泌物を介して土壌硝化を阻害することを示す直接的な証拠を提示した。これらの熱帯イネ科牧草において発見された高いBNI能は、窒素利用効率を上昇させ、亜酸化窒素排出を低減させる。受賞者の主要な研究成果は、この重要なBNI特性に関する表現型を正確に決定するためのツールを開発し応用したことである。もう一つの重要な研究成果は、熱帯イネ科牧草とマメ科樹木との組み合わせから優れた飼料配合を割り出すことにより、ウシの飼養管理技術を開発したことである。こうした栄養価の高い飼料を用いることで、ウシによる利用効率が改善され、腸内発酵によるメタン排出が効果的に低減される。

受賞者名:MAI Thi Ngan(マイ・ティ・ガン)
ベトナム国家農業大学(ベトナム)

業績名:豚流行性下痢ウイルス検出のための簡便で正確かつ安価な診断検査法及びプール検査システムの開発

MAI Thi Ngan

[業績概要]

「予防は治療に勝る」との諺があるが、残念ながら予防には十分な努力が払われていないというのが実情である。予防は困難ではあるが、この格言はブタ流行性下痢(PED)を始めとした越境性動物疾病の制御にとっては重要なメッセージである。PEDは新興性と再興性共に有するブタの動物間流行性疾患であり、仔ブタにおける罹患率と死亡率が高く、世界中で甚大な経済的損失をもたらしている。ベトナムではPEDは2009年に初めて確認され、風土病の段階へと発達した。PEDの予防と制御は食料安全保障上の有益な効果をもたらすと期待されており、PEDウイルス(PEDV)に感染した集団を積極的な監視を介して早期に検出することが求められている。しかし、監視は「ゴールドスタンダード」とされているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を使用して個体ごとに適用されており、この手法をベトナムのような発展途上国において使用することは困難である。高価であることに加えて、ベトナム国内の研究室の大半は設備が不足しており、PCRにおいて要求される高度な条件を満たせないからである。

この問題を解決するために、受賞者らはPEDV感染を診断できる革新的な検査法の開発に成功した。この検査法はループ媒介等温増幅(LAMP)法を利用しており、感受性と特異性が高く、安価、迅速かつ簡便である。さらにまた、この新規システムでは個々の動物だけでなく、複数の動物を一度にまとめて検査することができる。このシステムは実用性と適用性が高く、設備の整っていない研究施設や発展途上国においても利用可能である。また、大規模な疫学的調査の設計や実施にも役立ち、PEDや他の疾病の効果的な制御を目的とした積極的な監視を可能にする。

受賞者名:Rebijith KAYATTUKANDY BALAN(レビジ・カヤットゥカンディ・バラン)
ニュージーランド第一次産業省植物防疫・環境研究所(インド)

業績名:分子生物学的手法によるインドの重要害虫の同定、多様性の解明及び防除

Rebijith KAYATTUKANDY BALAN

[業績概要]

害虫の正確な同定及び管理は、数十年にわたって極めて困難な課題であった。受賞者は、農作物を侵す種々の害虫をその発達段階、体色変化や性別に関わらず同定できる、複数のDNAバーコード及び種特異的なマーカーの開発に成功した。分子的多様性に関する受賞者の非常に優れた研究により、アブラムシやアザミウマ、コナジラミ等の種々の害虫における隠蔽種と遺伝群の存在が明らかにされた。そして、受賞者が参加したタバココナジラミの遺伝子群における殺虫剤抵抗性の状態に関する共同研究は、その功績が広く認められている。さらにまた、受賞者はワタアブラムシ、タバココナジラミ、Helopeltis antonii、コナガ等の管理において、RNA干渉(RNAi)の有用性をインドで初めて実証した。低分子RNAおよびRNAiに関する研究により、スポドプテラ属の幼若ホルモン生合成経路において、異なる様式で発現されるマイクロRNA(miRNA)が発見された。最後に、合成miRNAに媒介される遺伝子サイレンシングに関する受賞者の研究を基盤として、害虫の新規管理戦略が、現在、開発されているところである。

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