2017年若手外国人研究者表彰式

平成29年11月2日、国連大学ウ・タント国際会議場(東京都渋谷区)において若手外国人農林水産研究者表彰(農林水産省農林水産技術会議主催)の表彰式典が挙行されました。式典は、まず表彰式において、小林芳雄農林水産省農林水産技術会議会長の主催者挨拶に続き、来賓の皆様の挨拶、選考委員会の丸山清明座長より審査経緯の報告をいただきました。また、賞の授与では、小林会長より表彰状が、岩永勝JIRCAS理事長より甕(もたい)・JIRCAS賞(奨励金の目録)が受賞者に授与されました。

表彰式に引き続き受賞者講演が行われ、受賞者による研究成果の発表が行われ、つつがなく式典を終えることができました。

本賞は、開発途上地域のための農林水産業及び関連産業に関する研究開発に優れた功績を挙げた若手外国人研究者を農林水産省農林水産技術会議会長が表彰するもので、今回が11回目です。受賞者と業績名は、次のとおりです。

受賞者と業績名(敬称略)

Dr. Chandra Siddaiah NAYAKA

受賞者名:Chandra Siddaiah NAYAKA
(チャンドラ・シッダヤ・ナヤカ)
マイソール大学(インド)

業績名:植物-病原体システム及び生物工学的手法による植物病害管理に関する研究

[業績概要]

受賞者はインド・マイソール大学の有名な研究所であるアジア種子保健センターにて種子保健の研究員として研究してきた。これまでに、種子伝染性病原体を迅速かつ正確に検出する新しい分子プローブの開発に成功している(特許出願済)。分子プローブとして利用される1000を超えるゲノムの部分塩基配列がアジア地域から集められて、国立生物工学情報センター(NCBI)、日本DNAデータバンク(DDBJ)、及び欧州分子生物学研究所(EMBL)に保存されているが、それらの系統発生学的多様性を研究した。また、農産物、食料、及び飼料サンプルからマイコトキシンを迅速に検出するモノクローナル抗体とラテラルフローアッセイも開発している(特許出願済)。

現在、受賞者はインド農業研究評議会(ICAR)傘下のマイソール大学バイオテクノロジー学部の主席研究員として、「トウジンビエのべと病、及びいもち病の原因菌となるSclerospora graminicola、及びMagnoporthe griseaの全ゲノム解析、及びエフェクター候補の特性評価」と題した研究の責任者である。さらに、受賞者の研究グループは、S. graminicola強毒株の全ゲノムシーケンスに世界で初めて成功している。これにより、病原性に関連する遺伝子、二次代謝、ホルモン産生、RxLR–dEERモチーフ配列構造、及びRxLR状エフェクターの進化過程、及びそれらの基準となるモチーフの解明を目的とした研究を進める上で、S. graminicola の進化パターン、インシリコ予測、遺伝子間距離、及びプロモータのアノテーションの解明につながると考えられる。これは結果的に、宿主植物と病原体の相互作用、及び宿主植物の防御システムの解明へとつながり、病原体耐性を持つ品種の開発に役立つことになる。

Dr. Min AUNG

受賞者名:Min AUNG
(ミン・アウン)
獣医科学大学(ミャンマー連邦共和国)

業績名:乳牛の生産性と衛生、酪農家の生活改善及び酪農の環境影響に関する研究

[業績概要]

ミャンマーに豊富に存在するモンキーポッドは、市販の配合飼料の代替飼料として(最高で15%まで)使われているが、このモンキーポッドが乳牛のメタン放出、飼料消費量、乳生産量、及び飼料費用に与える影響について調査した。その結果、飼料発酵によるメタン放出量の減少、飼料消費量の増大、乳生産量の増大が認められた。さらに、飼料費用についても、乳1キログラム当たり81ミャンマーチャット(日本円で約8円)減少した。

ミャンマー中央部の乳生産システム、及び飼料となる地域資源についての調査結果によると、分娩間隔は18ヵ月、1日の牛1頭当たり乳生産量は11.5キログラムであり、人工授精の取り組みは少なく(23%)、流産のケースも若干認められた(7%)。農業の副産物や穀物残渣は栄養価が高く、飼料としての価値があり、乳牛の基礎飼料として一般的に利用されてきた。したがって、乳牛生産から得られる収益は、農業セクター全体の要素を適切に組み合わせることによって最大化することができるが、ミャンマー中央部において乳牛の生産性を最大化するには、現地で行われている人工授精の方法を改善する必要がある。

酵母細胞壁を栄養補助飼料として与えることによって、乳牛の泌乳初期における乳生産量、乳成分の生産量、及び飼料効率が増加した。乳中体細胞数は50%減少し、乳房の健康が増進された。さらに、エネルギー代謝、及び養分利用にプラスの効果が認められた。乳牛の免疫機能に関しては、T細胞受容体、細胞障害性T細胞、及びIL8、CCL2、CCL3 やCCR2といったサイトカインが増加した。したがって、酵母細胞壁を栄養補助飼料として与えることによって、モノサイトとマクロファージの機能が活性化され、ファゴサイトーシス活性が亢進したと言える。

Dr. Sheetal SHARMA

受賞者名:Sheetal SHARMA
(シータル・シャルマ)
国際稲研究所(IRRI)(インド)

業績名:最先端の情報通信技術を用いた、圃場毎の養分及び作物の管理方法の適用による、南アジアの小規模農家における、生産性及び利益性の向上を実現する革新的方法の開発

[業績概要]

南アジアにおいて、これまで土壌養分の管理のために推奨されてきた施肥方法は、どの農地でも同じ内容であり、小規模農家の農地が土壌肥沃度、作物の栽培管理方法その他の観点からみて非常に多様であることが考慮されていない。将来的に生産性を上げ、投入資材対効果を向上するには、知識集約型で、圃場毎の特徴に合致した土壌、及び作物の管理技術が必要である。受賞者とその研究チームは、革新的な方法により、国際稲研究所(IRRI)によって開発された圃場毎の土壌養分管理技術、及びそのツールを翻訳し、途上国に移転して広範囲にわたって利益を最大化する業務に携わってきた。受賞者は、農家へ土壌養分に関する情報を提供する「クロップ・マネージャー(作物管理者)」と呼ばれる情報通信技術ツールのインド版の制作にあたり、ツールの概念化、及びデザインにおいて中心的役割を果たした。受賞者が戦略的かつ実情に適合した調査により必要なデータを収集し、戦略的パートナーシップを構築したことで当ツールはさらに改良・評価された。

こういった努力の積み重ねにより、インド版「クロップ・マネージャー」の2つのバージョンが開発された。そのうちの1つであるインド・オリッサ州用に開発された「クロップ・マネージャー」によって、現地のコメの生産性は1ha当たり0.5~0.8トン向上し、純収益は従来の農家に比べると、1季1haあたり104~155ドル向上したことが実証されている。同様に、インド・ビハール州用に開発された「クロップ・マネージャー」によって、現地のコメ、及び小麦の生産性は1haあたり0.7トン、0.3トンそれぞれ向上し、純収益は従来の農家に比べると、1季1haあたり147ドル、63ドルそれぞれ向上した。インド版「クロップ・マネージャー」はIRRI、及びインド農業・農民福祉省農業協力・農民福祉局による「持続可能な農業に向けた国家的ミッション」に係る国内のパートナー機関との協働により開発された。パートナーシップを強化し、様々なステークホルダーの能力を高めることによって、「クロップ・マネージャー」が推奨する土壌管理情報は3万人以上の農家に提供された。さらに、受賞者と研究チームは「クロップ・マネージャー」から得られる利益を2020年の終わりまでに約100万人の小規模農家にもたらすことを目標としている。