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478. 厳しい環境と気候変動下での安定的な農業生産に向けた技術開発

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478. 厳しい環境と気候変動下での安定的な農業生産に向けた技術 

国連が掲げる17の「持続可能な開発目標」(SDGs)の二つ目は、飢餓の撲滅、食料安全保障の実現、栄養改善、持続可能な農業の推進を目標としています。しかし、アフリカをはじめとする開発途上地域では、土壌の肥沃度の低下や干ばつなどの環境要因や、病害虫などの生物要因によって、植物の生育や成長にストレスがかかり、農業のポテンシャルが十分に発揮されていないことが知られています。

このような地域における食料および栄養の安全保障を確保するため、国際農研では第4期中長期計画期間(2016〜2020年度)に農産物安定生産プログラム において、不良環境耐性作物開発プロジェクト高バイオマス資源作物プロジェクト病害虫防除プロジェクトを実施しました。2021年10月に、それらをまとめた総説Technology Development for Stable Agricultural Production under Adverse Environments and Changing Climate Conditions JARQ (Japan Agricultural Research Quarterly) に公表しました。

この総説では、これらのプロジェクトにおいて、(1) 不良な環境や気候変動に対して高い生産性と適応性を持つ技術および作物の開発を目指したこと、(2) 環境ストレス耐性や病害抵抗性を有する作物を開発するために、これらの形質に関与する遺伝子を明らかにし、育種材料の開発に活用したこと、(3) 国境を越える害虫を効果的に防除する技術を開発するため、その発生生態を解明し、それに基づく防除技術を開発したことを紹介しています。

2019年12月に確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在世界中に影響を及ぼしています。COVID-19は、気候変動により既にストレスを受けていた食料システムの脆弱性と弱点を露呈しました。安定した食料生産を実現し、栄養失調を減らすための取組がますます重要になっています。私たちの研究は、開発途上地域の食料・栄養・エネルギーの安全保障の実現に貢献できるよう、安定した農業生産のために推進されるべきものです。

また、COVID-19が世界的に大きな被害をもたらしたように、病害虫も国境を越えて蔓延し、作物生産に被害を与えています。国境を越える病害虫を軽減するためには、被害を受けた国や地域が協調して努力し、資源をプールすることが必要です。研究機関は、関係国を超えた国際的な研究協力を通じて、効果的な対策を実施することが重要です。このような共同活動により、早期発見、予防、迅速な防除が可能になります。国境を越える病害虫への対応を目的とした戦略的なプログラムのもと、持続可能な食料生産と環境保全の実現、そして持続可能な開発目標の達成に向けたグローバルな取り組みの推進に、私たちはより一層貢献する必要があります。

国際農研では、2021年4月に第5期中長期計画期間(2021〜2025年度)がスタートしました。食料プログラムレジリエント作物プロジェクト越境性害虫プロジェクト、及び情報プログラムの熱帯作物資源プロジェクト において、国内外の研究機関等と協力して、厳しい環境と気候変動下での安定的な農業生産に向けた研究を継続発展させています。

(参考文献等)
Nakashima K, Urao T, Xu D, Ando S and Kato M (2021). Technology Development for Stable Agricultural Production under Adverse Environments and Changing Climate Conditions. JARQ 55 (4):295-305, DOI:10.6090/jarq.55.295, https://www.jircas.go.jp/ja/publication/jarq/2020j11

第4期中長期計画
【農産物安定生産プログラム】

熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b
【不良環境耐性作物開発プロジェクト】
不良環境に適応可能な作物開発技術の開発
https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b/b2
【高バイオマス資源作物プロジェクト】
不良環境でのバイオマス生産性が優れる新規資源作物とその利用技術の開発https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b/b3
【病害虫防除プロジェクト】
国境を越えて発生する病害虫に対する防除技術の開発https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b/b4

第5期中長期計画
【食料プログラム】

新たな食料システムの構築を目指す生産性・持続性・頑強性向上技術の開発
https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob
【レジリエント作物プロジェクト】
レジリエンス強化作物とその生産技術の開発
https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/b1
【越境性害虫プロジェクト】
生態に基づく越境性害虫の環境調和型防除体系の構築https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/b3

【情報プログラム】
戦略的な国際情報の収集分析提供によるセンター機能の強化
https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc
【熱帯作物資源プロジェクト】
熱帯性作物の持続的生産に向けた遺伝資源の情報整備と利用促進技術の開発および国内外との連携強化
https://www.jircas.go.jp/ja/program/prob/c4

扉絵:
上:耐塩性遺伝子を導入したダイズ系統(右が導入した系統;撮影:許東河)
左上:東北タイで旺盛な生育を示すエリアンサス(左:エリアンサス、右:多用途型サトウキビ;撮影:安藤象太郎)
右下:数えきれないほどのサバクトビバッタの群れ(撮影:前野浩太郎)

(文責:食料プログラム 中島 一雄、リスク管理室 浦尾 剛、生物資源・利用領域 許 東河、熱帯・島嶼研究拠点 安藤 象太郎、企画連携部 加藤 雅康)

 

 

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