国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

Pick Up

5. 熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発

2020-03-24

Pick Up初回記事 で述べたように、世界人口の増加や新興国における経済成長及び所得水準の向上により、中長期的には世界の食料需給がひっ迫することが懸念されています (Pick Up 1) 。とりわけサハラ砂漠以南のサブサハラ・アフリカでは2050年までに人口が倍増し都市化も進むと予測されていますが、4人に1人が栄養不良であるため、質・量ともに食料安定化を達成することが喫緊の課題です。

一方、サブサハラ・アフリカをはじめとする開発途上地域では、土壌の低肥沃度や乾燥等の不良環境のために農業生産の潜在能力が十分に発揮できていません。こうした地域の小規模農民の多くは、水や化学肥料の大量使用とは無縁であり、気候変動をもたらす原因に最も関与していないにもかかわらず、気候変動による異常気象により最大の被害を被ることが予測されています。2019年秋に、前国連総長の潘基文氏やビルゲイツ氏が中心的役割を果たす気候変動適応グローバル委員会は、2050年までに、気候変動は世界の農業生産性の伸びを30%抑制しかねないとし、気候変動対応への無策に警鐘を鳴らしました (Global Commission on Adaptation 2019)。持続可能な開発目標(SDGs)の中でも貧困・飢餓の撲滅を達成するには、土壌や水資源に恵まれない熱帯等の地域における食料増産を推進するための技術開発が極めて重要です。

とくにサブサハラ・アフリカ地域は、面積のみでみれば世界の潜在的な耕作地の50%以上を占めますが、実際に農業生産に適した条件を満たすのは一部でしかありません (Jayne et al. 2010; Hengl et al. 2017) 。1950年以来、サブサハラ・アフリカの農地面積は拡大してきましたが、作物の収量は低水準にとどまり、水の制約を考慮しても、潜在的な収量を達成し得ていない状況にあります (Jayne et al. 2010) 。この地域の農業が上手くいっていない(underperformance)背景には、土壌養分の不足、土壌物理的な制約、病害虫被害、最適でない経営体系など、複雑な要因が絡まっているとされています (Giller et al. 2009; Hengl et al. 2017) 。

国際農研では、「熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発」(農産物安定生産研究プログラム)において、アフリカをはじめとする開発途上地域を対象に、国内外の関係機関と連携した国際共同研究を通じて、農産物の安定生産技術の開発に取り組んでいます。とりわけサブサハラ・アフリカにおいては、コメの急激な消費増大のために生産性向上が求められているイネや、同地の地域作物として重要な位置を占めるササゲ・ヤム等の作物について、遺伝資源の多様性の利用技術及び栽培環境に適応した高い生産性や地域の嗜好性に適応した育種素材を開発するとともに、有機物や水等の地域資源を有効に活用した作物生産・家畜飼養技術等の開発に取り組んでいます。また、低肥沃度、干ばつ、塩害等の不良環境に適応可能な高生産性作物を作出するための基盤技術の開発や、先導的な育種素材の開発、開発途上地域のほ場での評価、利用技術の開発を行っています。さらに、我が国への侵入・拡大が懸念される越境性の作物病害虫等の防除に向け、移動性害虫や媒介虫の発生生態解明に基づく防除及び侵入・拡大抑制技術を開発しています。また、国際農研がこれまでに構築した研究ネットワークを活用して病害抵抗性品種を育成しています。

これらの試験研究ならびに開発技術の普及を推進し、研究成果を最大化することにより、開発途上地域における農産物の生産性向上と栄養改善、さらには世界の貧困撲滅と平和な社会づくりに貢献するとともに、世界的な農産物の安定生産を通じた我が国への食料安定供給にも寄与するべく、研究を推進しています。より詳しくは、プログラムのサイトをご覧ください(https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b)。

 

参考文献

Giller KE, et al. (2009) Conservation agriculture and smallholder farming in Africa: the heretics’ view. Field Crops Res 114(1):23–34.  https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0378429009001701?via%3Dihub

 

Global Commission on Adaptation (2019) Adapt Now: A Global Call for Leadership on Climate Resilience. https://gca.org/global-commission-on-adaptation/report

(参考) https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20190911

 

Hengl et al. (2017) Soil nutrient maps of Sub-Saharan Africa: assessment of soil nutrient content at 250 m spatial resolution using machine learning. Nutrient Cycling in Agroecosystems volume 109, pages77–102; https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s10705-017-9870-x.pdf

 

Jayne TS, et al. (2010) Principal challenges confronting smallholder agriculture in sub-Saharan Africa. World Dev 38(10):1384–1398. doi:10.1016/j.worlddev.2010.06.002

 

農産物安定生産 研究プログラム https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_b

 

Pick Up 1. 持続可能な開発目標(SDGs)と農業研究 - 国際農研@50周年. JIRCAS 現地の動き.  https://www.jircas.go.jp/ja/program/program_d/blog/20200308

 

(文責:農産物安定生産プログラム  中島一雄 ・ 研究戦略室  飯山みゆき)

Increased rice production in Africa (Ghana)

Cowpea (left) and yam (right) support the diet of people in West Africa (Nigeria)