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1103. 気候変動は農業の環境インパクトを悪化させる

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1103. 気候変動は農業の環境インパクトを悪化させる

 

近代的農業は、温室効果ガス排出、水・大気汚染、生物多様性喪失と、世界的に多大な環境インパクトをもたらしてきました。世界人口が増え、こうした人々の経済的に豊かになるにつれ、食料・飼料・繊維・バイオ燃料への需要が増大し、農業の環境インパクトが増すことが予測されています。さらに、気候変動のもとで農業の環境インパクトが増幅する懸念が高まっています。気候変動の悪化に伴い、農業生産性が低下するだけでなく、近代的な農業の発展を支えてきた比較的安定的な環境が崩れることで、農業と環境、そして環境と農業、の関係性が大きく変わることが予想されているからです。
 
Science誌に公表されたレビュー論文は、農業の環境インパクト - 温室効果ガス排出・水利用と不足・土壌劣化・窒素リン汚染・病害虫発生と農薬使用による汚染・生物多様性喪失 -に関し、気候変動が与える影響を分析しました。その結果、次の2点が浮かび上がりました。

第一に、気候変動は既に多大な農業生産の環境インパクトを悪化させます。その原因として、(i)直接的な農業生産への負の影響、 (ii) 農業関連の化学物質の効果抑制および環境への流出増加、 (iii)作物病害虫の増加と土壌侵食、が挙げられています。

第二に、既に人為的な温室効果ガス排出の4分の1を占める農業が、気候変動のもと、複数の経路を通じて温室効果ガス排出増強のフィードバックに陥ります。気候変動は、水田からのメタン、土壌からの亜酸化窒素、そして農地拡大のための森林伐採や土壌耕起を通じた二酸化炭素、といった温室効果ガスを排出します。さらに、化学肥料や農薬の効果低下を補うための使用量増加、干ばつによるエネルギー・カーボン集約的な灌漑利用増加、農地からの養分流出がもたらす水系における生物起源の温室効果排出増加、によって間接的に温室効果ガス排出増加をもたらします。

安定的で持続的な農業は、長期的に人類および地球の健康を維持する上で、極めて重要です。気候変動への対応に向け、農業の環境持続性・気候レジリエンスを強化するため、とりわけ作物多様化や統合された土壌肥沃度管理などの複数の便益をもたらしうる農業慣行やテクノロジー採択を加速することが必要です。しかし、社会経済的な障壁がしばし持続的な慣行やテクノロジーの採用を阻みます。コンテクストごとに障壁を理解すること、そしてそれらに対応するための政策が早急に求められています。安定的で持続的かつ気候に強靭な農業を構築するうえで、新規の農業技術を発見し、適応させ、コストを低減させるための投資増強が求められています。同時に、現在よりも単位当たり土地・水・化学物質の必要性を大幅に削減することのできる新規の食品や食生活の採択が重要となります。

レビューはまた、答えの出ていない課題も同定しました。気候変動インパクトが悪化することは明白ですが、どのような規模で起こりうるのかについては不確実性が伴います。また、気候・農業フィードバックループについて、ローカルからグローバルでの数量的な評価が求められるでしょう。さらに、複雑な気候・農業・生物多様性フィードバックループについても、そのメカニズムの量的な分析を行っていく必要があります。

 

(参考文献)
Yi Yang et al. Climate change exacerbates the environmental impacts of agriculture. Science
6 Sep 2024, Vol 385, Issue 6713
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn3747


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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