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324. 「国際熱帯デー」と国際農研 熱帯・島嶼研究拠点

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324. 「国際熱帯デー」と国際農研 熱帯・島嶼研究拠点

明日、6月29日は国際熱帯デーです。 
国際熱帯デーにちなみ、石垣島にある国際農研の支所である熱帯・島嶼研究拠点についてご紹介します。石垣島の市民の皆様からは“熱研”の愛称で親しまれています。

熱研は国際農研の支所として、国際農研の前身である熱帯農業研究センターが発足した1970年と同じ年に、石垣島に設置されました。熱研は島南平野部の高台にあります。熱研のあるこの場所は、元々1933年に、旧海軍により南方方面へ飛行する際の航空機不時着場として整備された土地で、戦後、国有地として残されていた跡地を再整備してできました。一辺550mの正方形で均平にならされた高台に位置する熱研は、飛行機上空からも良く見る事ができ、昔の飛行場の名残を強く残しています。

石垣島に熱研が設置された大きな理由は2つあります。最大の理由は、国際農研が海外で実施する研究サイトに類似した気候・環境条件にある事です。石垣島は東京から南西約2,000kmと遠く離れており、那覇からも410kmと、地理的には沖縄よりも台湾に近い位置にあります。年平均気温は24.3℃、年間平均降水量は2,107mmと、東京(年平均気温15.4℃、年間平均降水量1,529 mm)と較べ、熱帯湿潤にかなり近い気候です。また県内最高峰である於茂登岳(526m)から石西礁湖と呼ばれる日本国内最大のサンゴ礁の海域に繋がる豊かな自然生態系が残されており、日本本土の生態系と大きく異なっています。

熱研内には防風林で囲まれた21haの試験圃場があり、これらの圃場で、石垣島の気候に合ったサトウキビ熱帯果樹インド型イネ等の育種や栽培技術に関する研究を行っています。また島嶼を一つの閉じた生態系として捉え、山・里・海を繋ぐ環境保全型の農業開発に取り組んでいます。熱研の敷地内には熱帯果樹栽培用、サトウキビ交配用や形質転換植物実験用といったいろんなタイプの温室や、植物の根の様子を観察・計測できるライシメーター等の施設があります。これらの試験圃場や施設を利用して、熱帯・亜熱帯の開発途上地域や島嶼地域に応用できる農業生産技術の開発に向け、特に、海外の研究サイトでは実施が困難な基盤的・基礎的な研究に取り組んでいます。

今年度から始まる第五期中長期目標(2021~2025年度)においては、SDGs達成に向けた農林水産技術開発への期待の高まりや「食料・農業・農村基本計画」(2020年3月31日閣議決定)および「みどりの食料システム戦略」の検討状況を踏まえ、気候変動対策技術や資源循環・環境保全技術の開発、新たな食料システムの構築を目指す生産性・持続性・頑強性向上技術の開発、戦略的な国際情報の収集分析提供によるセンター機能の構築を重要分野と位置付け、ポストコロナ社会を見据えた新たな研究開発および事業運営に向けて活動を行っています。

石垣島に熱研が設置された2つ目の理由は、国内農業への貢献です。設置にあたって、沖縄農業振興の立場から数多くの提案や要請があり、それらを受けて、亜熱帯地域における農業の技術に関する研究、熱帯・亜熱帯原産作物の導入馴化に関する研究や、沖縄農業の振興に寄与する研究について、国内農業への貢献として実施することが決まりました。熱研は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構遺伝資源センターが推進する農業生物資源ジーンバンク事業の熱帯・亜熱帯作物サブバンクとして、熱帯果樹サトウキビ等熱帯作物の遺伝資源を保存・管理しています。また国内の研究者と連携し、イネやコムギの世代促進、熱帯果樹やサトウキビの交配等国内の育種効率化等に貢献しています。作物の導入、馴化に関する研究の成果として今までに、海外や南西諸島向けのインゲン、パパイヤ、パッションフルーツ、サトウキビ、牧草等の品種を育成しました。

亜熱帯環境下にある国内唯一の農林水産省管轄の農業の研究機関である熱研は、その特異的な特徴を存分に活かしながら今後も、国内外の農業への貢献といった役割を担いながら、職員一丸となって研究を進めていきたいと考えています。

(文責:熱帯・島嶼研究拠点 大前英)

 

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