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13. 熱帯・島嶼拠点@石垣島における熱帯果樹研究
国際農研は沖縄県石垣市(石垣島)に熱帯・島嶼研究拠点を有しています。近年、世界的にも観光地として注目を浴びている石垣島は、那覇から南西約400 kmに位置し、地理的には沖縄本島よりも台湾に近くなっています。気候的には亜熱帯地域に属し、年平均気温は24.3 ℃、年間平均降水量は2,107 mm と高温多湿であることが特徴です。このような亜熱帯と島嶼という、国際農研が海外で実施する研究の現場にも類似した気候条件や地理的条件のもと、21 ヘクタールの試験圃場、各種温室、施設等を利用して、熱帯・亜熱帯の開発途上地域や島嶼地域に応用できる農業生産技術の研究開発に取り組んでいます。また、亜熱帯という環境を生かし、熱帯作物の遺伝資源保存や育種素材の開発、並びに西南暖地向けの品種育成を行う等、国内農業にも貢献しています。このように、国関係の農業研究機関では唯一熱帯作物の栽培環境での実証研究が可能な当拠点は、国内外の農業に貢献するために大きな使命を担っています。
世界の熱帯・亜熱帯地域において広く栽培される熱帯果樹には様々な種があります。多くはビタミンなどの栄養素に富み、また商品価値も高く、熱帯果樹生産を向上する研究は、潜在的に消費者・生産者双方の利益になると期待されます。最近では日本でも百貨店の高級果物店のみならず、スーパーなどでも、輸入・国産ともに、珍しい熱帯果物が入手できるようになりました。国際農研では、熱帯・島嶼研究拠点の地理的かつ研究設備としての優位性を活かし、開発途上国と日本の双方における熱帯果樹生産の促進に貢献する研究を行っています。具体的には、熱帯果樹研究の促進と遺伝資源利用の活性化をめざし、マンゴーおよびパッションフルーツの研究を行ってきました。
マンゴーは、世界でバナナ、パインアップルに次いで3番目に生産量の多い熱帯果樹で、世界には‘アルフォンソ’、‘ヘイデン’、 ‘キーツ’、 ‘トミーアトキンス’をはじめ数百品種があるとされています。主要な産地の一つである東南アジアにおいても重要な換金作物ですが、品種や栽培技術の開発、高付加価値化への体系的な取組みが進んでおらず、研究開発の貢献の余地が大きいことが特徴です。また日本においては、海外からの導入後、現在経済栽培され流通している国内産マンゴーの殆どは‘アーウィン’1品種であり(>90%)、高付加価値化や市場拡大の可能性のために品種の多様性を活用するための研究が望まれていました。国際農研は、日本国内で保有されているほぼ全てのマンゴー遺伝資源に関する遺伝的解析により、約80の異なる品種が育成地に由来する3つのグループ(アメリカ、インド、東・東南アジア)に分類されることを明らかにしました(Yamanaka et al. 2019)。また国際農研が有するマンゴー遺伝資源の石垣における試験栽培で得られた開花期や果実品質等の品種特性については、国際農研のホームページ等を通じて、国内の研究者、生産者、消費者に情報を提供しています(「JIRCASマンゴー遺伝資源サイト」、令和元年度国際農研成果情報)。さらに、これらの知見は共同研究を実施しているミャンマーにおけるマンゴー品種の分類や品種識別技術の開発にも貢献しています。
パッションフルーツは、国内ではパインアップル、マンゴーに次ぐ生産量を占める熱帯果樹です。温暖化対策としての需要も見込まれ、さらなる国内生産の拡大が期待されています。国際農研は、2016年に従来の品種よりも酸味が少なく見た目のよい新品種‘サニーシャイン’を開発しました(平成28年度国際農研主要普及成果)。パッションフルーツは、熱帯果樹ではあるものの花や果実のなる時期の極端な高温に弱く、また近年ウイルス病による被害が拡大しており、国際農研では、パッションフルーツの耐暑性の育種やウイルスフリー技術の開発にも取り組んでいます。
参考文献
酸味が少なく外観良好なパッションフルーツ新品種「サニーシャイン」、国際農林水産業研究成果情報(平成28年度)、https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2016_d02
Yamanaka S et al. (2019) Genetic diversity and relatedness of mango cultivars assessed by SSR markers. Breeding Science, 69:332-344.
「JIRCASマンゴー遺伝資源サイト」、https://www.jircas.go.jp/ja/database/mango/mango-top
国内保有マンゴー遺伝資源の多様性および品種特性、国際農林水産業研究成果情報(令和元年度)、https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2019_d02
(文責:熱帯・島嶼研究拠点 山中愼介)