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279. 川の健康診断 ―ところ変われば「川」変わる?!―
熱帯や亜熱帯の海岸に多く分布するサンゴ礁は、サンゴという生物が作った地形で、面積としては地球表面の約0.1%しかありませんが、その中に9万種類もの生物が住んでいるとされ、生物多様性の観点から重要な場所となっています。また、サンゴ礁では漁業も営まれ、地域の人々の暮らしを支える食料を提供しているほか、その美しい景観から多くの旅行者を惹きつける観光資源ともなっています。
ところが現在、このサンゴ礁が危機に直面しています。2011年に世界資源研究所(World Resources Institute)が発行した調査報告「Reefs at Risk Revisited」では、世界のサンゴ礁の75%が危機的な状況にあると評価されています。その原因としては、陸域から大量の土砂が流れ込み、サンゴの上に堆積することによりサンゴが窒息してしまうことや、サンゴを食べるオニヒトデの大量発生などのほか、近年では気候変動による海水温の上昇などが原因でサンゴの活動が低下してしまう「白化現象」も深刻化しています。これらのうち、土砂の流入については、特に雨が降った後に農地や開発現場などから大量の土が流れ出し、それが河川を通して海に流出することが主な原因とされています。オニヒトデの大量発生についても、同じく陸域から河川や地下水を通して窒素やリンなどの栄養塩類が過剰に海に流入し、それによって植物プランクトンが増え、その結果その植物プランクトンを餌とするオニヒトデ幼生の生存率が上がってしまう、というのが有力な説となっています。
国際農研では、今月から始まった第5期中長期計画において、周囲にサンゴ礁が分布する熱帯・亜熱帯の島嶼地域を対象に、山林や農地の適切な管理や、作物残渣などの生物資源の有効活用を通じて、陸域からの土壌や過剰な栄養塩類の流出を抑制する技術を開発・実証するプロジェクトを実施しています。その中で、河川水に含まれる土壌や栄養塩類の濃度に及ぼす流域(地表に降った雨水が集まって河川に流れ込む領域)の土地利用、地形、地質などの影響を明らかにすることを目的として、国際農研の熱帯・島嶼研究拠点がある石垣島などを対象に河川の水質調査を行っています。令和3年度国際農研一般公開のミニ講演「川の健康診断 ところ変われば「川」変わる?!」では、その河川調査の様子や、これまでの調査で分かってきたことの一部について紹介しています。ぜひご覧ください!
参考文献
国立環境研究所, サンゴ礁の過去・現在・未来 ~環境変化との関わりから保全へ~, 環境儀 No. 53 (2014). https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/53/02-03.html.(2021年4月13日閲覧)
Burke, L., Reytar, K., Spalding, M., Perry, A. Reefs at Risk Revisited. World Resources Institute (2011). https://www.wri.org/publication/reefs-risk-revisited. Accessed on April 13, 2021
沖縄県, オニヒトデのはなし(第2版)(2004). https://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/shizen/hogo/documents/onihitode….(2021年4月13日閲覧)
(文責:生産環境・畜産領域 菊地哲郎)