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354. 土壌が変われば肥料の効果も変わる ―きめ細やかな肥培管理の実現に向けて―

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354. 土壌が変われば肥料の効果も変わる ―きめ細やかな肥培管理の実現に向けて―

アフリカなどの開発途上地域の多くの農民にとって、肥料は高価なもので、十分な増収効果が見込めなければ、肥料を撒くことはむしろ経済的な損失にもつながります。当地域の土壌の性質は、隣接する圃場間でも大きく異なることから(Nishigaki et al. 2019西垣ら2020)、農民が自分の畑や水田に肥料を撒くことで作物収量がどれだけ増えるのかをあらかじめ知ることができれば、施肥設計に有用な情報となります。

国際農研とマダガスカルのアンタナナリボ大学の研究チームは、マダガスカルの貧栄養な水田を対象にした農家圃場試験と温室でのポット試験を実施し、作物の生育にとって重要な養分であるリンをくっつける土壌の性質(リン吸着能)が強いほど、リン肥料を撒いたときのイネの増収効果が小さくなることを明らかにしました(Nishigaki et al. 2021)。土壌のリン吸着能が非常に高いため、リン肥料を撒いてもまったくイネの収量が増加しない水田もみられました。このことから、あらかじめ土壌のリン吸着能を把握することで、リン吸着能が低くリンの施肥効果が高い圃場へ優先的に肥料を撒くなど、農民が肥料からのリターンをより確実にするための方針が立てられるようになりました。

さらに、本研究チームは、このリン肥料を撒く指針として有効な土壌のリン吸着能を土壌に含まれる水分量から簡単に推定できることを明らかにしました(Nishigaki et al. 2021)。これまで土壌のリン吸着能の分析には、危険な化学薬品や高価な分析機器などを用いる必要がありました。しかし、こうした高度な分析環境を持たない農業技術普及員などでも土壌のリン吸着能を簡単に測定できれば、農民にすばやく土壌の診断結果を還元し、肥培管理へ活用できるようになります。本研究チームは、マダガスカルの200地点以上の水田土壌を分析することで、土壌のリン吸着能は、土壌を乾かした際にしぶとく土壌に残っている水分(風乾土水分)の量によって推定できることを明らかにしました。風乾土水分の測定には、上記のような高度な分析環境を必要とせず、乾燥器と電子ばかりがあれば誰でも安価に測定できるため、農民が自らの水田の土壌特性を知る機会が得られやすくなったと考えています。これらの知見と簡易評価法は、マダガスカルをはじめとする熱帯地域のイネ生産性を制限するリン欠乏土壌において、土壌の性質に応じたきめ細やかな肥培管理(国際農研2021a国際農研2021b)を実現し、生産性の向上に貢献することが期待されます。

本研究は、SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)「肥沃度センシング技術と養分欠乏耐性系統の開発を統合したアフリカ稲作における養分利用効率の飛躍的向上(国際農研・辻本研究代表)」で実施しました。


(参考文献)
Nishigaki et al. (2021) Soil phosphorus retention can predict responses of phosphorus uptake and yield of rice plants to P fertilizer application in flooded weathered soils in the central highlands of Madagascar. Geoderma. https://doi.org/10.1016/j.geoderma.2021.115326

Nishigaki et al. (2019) Phosphorus uptake of rice plants is affected by phosphorus forms and physicochemical properties of tropical weathered soils. Plant and Soil. https://doi.org/10.1007/s11104-018-3869-1

西垣ら(2020)イネ⽣育に対する⼟壌のリン供給能は室内分光スペクトルから迅速に推定できる. 国際農林水産業研究成果情報(令和元年度)(27) https://www.jircas.go.jp/ja/publication/research_results/2019_b01

国際農研(2021a)Pick Up 331. 養分供給力に乏しい土壌を克服する稲作技術https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20210707

国際農研(2021b)Pick Up 335. 有機資材を活用して、マダガスカル稲作の低生産性を克服する https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20210713

(文責:生産環境・畜産領域 西垣智弘研究員)
 

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