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1546. 土地劣化は農地の収量ギャップを拡大させる ―Nature Food誌掲載研究が示す食料安全保障への潜在的リスク―

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1546. 土地劣化は農地の収量ギャップを拡大させる
―Nature Food誌掲載研究が示す食料安全保障への潜在的リスク―

 

気候変動や生物多様性の損失と並び、土地劣化(Land Degradation)は国際社会が直面する重要な環境課題の一つです。しかし、土地劣化が農業生産性に及ぼす影響の大きさについては、これまで定量的な評価が十分に確立されていませんでした。

2026年にNature Food誌に掲載されたHadiらの研究は、世界規模の高解像度データを用いて、土地劣化と農作物の収量ギャップ(yield gap)の関係を体系的に評価したものです。本研究は、土地劣化が食料生産に及ぼす影響を全球規模で示した点に特徴があります。

本研究における収量ギャップとは、実際の収量と、その地域条件下で達成可能とされる収量との差を指します。解析では、小麦、トウモロコシ、イネ、大豆など主要10作物を対象に、約40万地点の農地データが用いられました。また、土地劣化の指標として、土壌侵食、土壌圧密、土壌有機炭素の減少、土壌水分の低下、樹木被覆の減少など複数の要因が統合的に評価されています。

その結果、土地劣化が10%進行するごとに、収量ギャップは平均で約1.75%(概ね2%)拡大することが報告されています。この結果は、土地劣化の進行に伴い、本来達成可能な収量との差が広がる傾向を示しています。特に、インド北部・南部、中国東北部、米国中西部、アルゼンチン北部などでは影響が大きく、地域によっては収量ギャップが6%以上拡大する可能性が示されています。

さらに著者らは、これらの影響を全球の農地に外挿し、土地劣化に起因する年間の生産損失を約2,000万トンと推計しています。これは約52兆kcalの食料エネルギーに相当し、約7,100万人分の年間食料供給量に匹敵するとされています。また、農業収入ベースでは年間約40億米ドルの損失が生じていると推定されています。

また本研究では、土地劣化の影響が特定の地域に限定されない点も指摘されています。高投入型農業が展開されている米国や中国の一部地域では、土地劣化の蓄積により収量への影響が顕在化しやすい傾向が示されています。一方、サブサハラ・アフリカでは収量ギャップ自体は大きいものの、投入資材やインフラなど他の制約要因の影響が大きく、土地劣化の寄与は相対的に小さいと報告されています。

本研究の結果は、地域ごとに優先すべき農業政策や技術介入が異なることを示唆しています。例えば、サブサハラ・アフリカでは引き続き投入資材や市場アクセスの改善が重要である一方、高収量地域では土壌保全や持続的土地管理の強化がより重要になると考えられます。著者らも、保全型農業や統合的土壌肥沃度管理を含む「持続的集約化(Sustainable Intensification)」の重要性を指摘しています。

近年、気候変動や生物多様性保全への関心は高まっていますが、土地劣化はそれらと密接に関連しつつも、相対的に注目が不足している分野です。本研究は、土地劣化がすでに食料生産に定量的な影響を及ぼしている可能性を示しており、土壌保全や農地修復への投資が、環境対策にとどまらず食料安全保障の観点からも重要であることを示唆しています。

今後、人口増加や気候変動に伴う生産リスクの増大が見込まれる中、土地劣化の抑制と持続可能な農地管理は、将来の安定的な食料供給を支えるための重要な要素になると考えられます。

 

引用文献
Hadi, H., Ray, D.K., Borrelli, P. et al. Land degradation is associated with larger crop yield gaps across global croplands. Nat Food 7, 678–687 (2026). https://doi.org/10.1038/s43016-026-01382-5

(文責:戦略統括室 飯山みゆき)
 

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