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893. 世界的な食料栄養分析の示すギャップと課題

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893. 世界的な食料栄養分析の示すギャップと課題

現在世界には栄養摂取量が不足している人も過剰な人も存在しています。農業の生産と栄養に関して、本日は、Nature Food に掲載された論文(Wang et al., 2023)をご紹介します。

グローバルフードシステムには、すべての人々に常に十分で栄養価が高く手頃な価格の食料を提供するという困難な課題があります。世界的に農業生産量と健康的な食事のための必要量とを比較すると、現在世界中で十分な量の食料が生産されているものの、推奨量に比べての過剰摂取や過少消費がみられます。これは、栄養不足と肥満がともに存在する現状を改善する可能性を示唆しているとも言えます。

推奨される食料摂取量と実際の食料摂取量との間の不均衡は栄養問題を引き起こし、健康上の問題や経済生産の減少などの一連の懸念につながります。これらの懸念を軽減することを目的とした世界・国規模の目標は数多くありますが、目標を達成するための政策を促進する十分なデータに裏付けられた証拠は限られています。

本論文では、食品生産-消費-栄養モデルを用いて、156 か国を対象に 11 種類の必須栄養素の食品ベースの利用可能性を定量化し、また推奨摂取量の比率として栄養素の利用可能性を評価しました。基準年の2017年には、世界の一人当たりの摂取可能量は、カロリーとタンパク質については十分、ビタミンAとカルシウムについては深刻な不足(摂取比、<0.60、1.0が適切)、ビタミンB12については中程度の不足(摂取比、0.76)でした。国レベルでは半数以上が、9つの微量栄養素すべてについて程度は異なるにせよ不足しており、地域や国間の格差が非常に大きいことがわかりました。

本研究は、食料以外の用途(種子や家畜の飼料など)、非可食部(トウモロコシの穂軸や卵の殻など)、食品ロスなどのためすべての農業生産物が人間の消費に利用できるわけではないという事実も定量的に説明しています。この定量化により、人間が消費できる食料の推定精度が向上し、より健康的な食生活の実現に向けた進捗状況を追跡するためのフレームワークが提供されています。

そして、現状では最適な食事を地球上のすべての人に供給することは現実的ではないとして、食品ロス削減への取り組みや生物学的栄養強化(biofortification)、サプリメント、オミックス技術なども視野に入れ、各地域の事情を鑑み、手ごわい課題である栄養安全保障に貢献できるよう様々な角度から提言しています。

 

(参考文献)
Komarek, A.M. Progress towards healthy diets remains slow. Nat Food (2023). https://doi.org/10.1038/s43016-023-00862-2
Wang, X., Dou, Z., Feng, S. et al. Global food nutrients analysis reveals alarming gaps and daunting challenges. Nat Food (2023). https://doi.org/10.1038/s43016-023-00851-5

 

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子)

 

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