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521. 世界の食料システム研究のギャップ

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521. 世界の食料システム研究のギャップ

侵攻、戦争、パンデミック、金融危機...これら全ての出来事が世界食料システムに未だかつてないストレスをもたらしています。

4月12日、Nature誌は、ウクライナでの戦争が食料システム研究のギャップをあぶりだしているとの論考を発表、研究者らによる食料危機の再来のサイクルを食い止めるアクションの必要性を訴えました。

ウクライナとロシアは合わせて世界の小麦の14%、30%の輸出、60%のヒマワリ油を生産しています。ロシアによる食料・肥料輸出の停止とウクライナ農家の窮状により、食料供給が危機に瀕しています。ロシア以外にも、16か国が輸出規制に乗り出し、インフレを悪化させています。このインパクトはとりわけ世界の貧困層と脆弱な社会層に壊滅的な影響をもたらします。インフレのせいで必要な援助額も膨張しています。

論稿は、各国のレジリエンスを高めるために、食料システムの危機に際して、適切なハイレベルの科学的助言を行う政府間メカニズムが不在であることの問題点を指摘しました。

食料危機への対応には、色々な学派が存在します。ある学派は、食料輸入依存の削減を主張するかもしれません - 仮にそれが自国で穀物・油脂作物用生産拡大のための森林伐採を必要とするにしても ― 。二つ目のグループは、危機をチャンスに変え、動物性食品からより環境に配慮した植物性食品への移行と食品ロスの削減を推進すべきと主張します。3つ目のグループは、コメ・小麦・トウモロコシ・ダイズ・イモに偏った生産から、マメ類・ナッツ・野菜を含む多様かつ地球に優しい農業への移行を提言します。最後に、現在バイオ燃料生産にあてられている土地を食料生産に戻せばよい、とする議論もあります。

こうした議論の提案は全てはコストを伴うものであり、トレードオフを推計する上でも研究は重要な役割を果たします。しかし十分な研究がなされていない分野が存在し、中でも小規模農業を対象とする研究は全体のは5%以下に過ぎないというレビュー結果もあります( Ceres2030) 。これまでの研究は、主食作物に偏ったものであり、食料システム研究の在り方が今問われています。

論稿は、地政学の重要性への認識が痛感される今、世界がフードシステムの変革とそのための研究課題に協同で取り組む必要性を訴えました。

参考文献

EDITORIAL
The war in Ukraine is exposing gaps in the world’s food-systems research. Nature 604, 217-218 (2022) 12 April 2022 
doi: https://doi.org/10.1038/d41586-022-00994-8

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

 

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