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559. 世界の農地拡大の動向
559. 世界の農地拡大の動向
様々な世界の事象を統計ダッシュボードによって可視化を試みるオンラインサイトのOur World in Dataは、世界の農業動向についても興味深い情報を提供しています。今回は、農地拡大の動向についてまとめた特設ページを紹介します。
人口増に見合う農業の拡大とともに、手つかずの土地を切り拓き、作物を生産し家畜を飼育する農地は拡大してきました。その結果、最後の氷河時代以来、人類は世界の森林の3分の1と世界の草地の3分の2を農地に転換してきました。この傾向は地球の生物多様性に大きなコストをもたらしてきました。過去5万年において、人類が居住した地域では野生哺乳類バイオマスが85%減少したとも推計されています。農地の拡大が世界の自然・生物多様性は会の最大要因でした。
近年、その農地拡大の傾向が「ピーク」を越した、とされています。
現在、世界の食料生産は史上類を見ない規模で行われていますが、使われる土地の面積は減少傾向に転じました。このことは、自然生態系を回復しつつ、より多くの人々への食料を供給することは可能であるということを意味しています。
農地といっても作物が整然と密に植栽されているケースばかりではなく、世界には様々な土地利用の形態があり、農村に点在する庭程度の小規模の農地ではどこからどこまでが農地かはっきりしないケースもあります。 このため、研究者らは様々な手法を用いて農地の推計をしてきました。その手法は大きく異なるものの、多くの研究・機関が、農地拡大の傾向がピークを越した、という点で一致しています。
このことは地球の歴史から見て画期的なことで、うまくすれば将来の食料生産が過去のように自然や野生動物の生存圏を破壊することなく、可能であることを示唆しています。
世界の農地と農業生産の間にデカップリング傾向が見られる、このことは、人類への食料供給が必ずしも自然破壊を伴わなくて済むということです。この一方で、平均的な肉消費が増加傾向にある中、放牧地の拡大が頭打ちになっているのはなぜでしょうか。世界は50年前に加えて3倍の肉を生産していますが、この間、豚や鶏は放牧ではなく穀物を飼料とした集約的な屋内飼育されるようになっていきます。このことは森林破壊を伴う放牧がいいのか、生物多様性の低い集約的な飼料作物生産がよいのか、というジレンマも伴います。実際に、現在世界の穀物の半分ほどが家畜飼料として消費されており、作物・肉への転換プロセスは未だに非効率です。また、バイオ燃料もアメリカやブラジルで耕地拡大の圧力となっています。
世界的には農地拡大が頭打ちになったとしても、安心すべきではありません。世界を見渡すと、多くの国でカーボンの豊富な生態系を破壊しながら農地が拡大している地域もあります。 傾向として、乾燥地域・温帯地域で放牧地の縮小が観察される一方、熱帯地域では拡大がしばし急速に進んでいます。放牧地拡大のホットスポットが、乾燥・温帯地域から生物多様性・カーボン豊富な熱帯地域にシフトしていることは由々しき事態であります。また耕地はまだ世界的にも拡大傾向にあります。とりわけ、サブサハラ・アフリカや南米では土地利用は拡大を続けており、とくに人口増・所得増が土地への圧力をかけていくことが見込まれています。
このため熱帯地域における作物収量・農業生産性の向上は、極めて重要です。こうした分野への投資を怠ることで、世界的な農地拡大反転傾向も長続きしない可能性があります。農地拡大のピークをどの地域においても実現することを最優先とすべきです。とくに、サブサハラ・アフリカ農業生産性の向上は今世紀の最大の課題の一つです。
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)