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492. 農地面積は21世紀に加速度的に拡大

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492. 農地面積は21世紀に加速度的に拡大

メリーランド大学カレッジパーク校のPeter Potapov氏らは、2022年1月、国際誌Nature Foodにて、論文「Global maps of cropland extent and change show accelerated cropland expansion in the twenty-first century」を発表しました。論文では、衛星データを用いて世界の農地拡大を調べており、21世紀入って農地面積は加速度的に拡大している事を示しています。

世界の農地面積に関する衛星観測データは、地球規模の農業、土地利用マッピングや、持続可能な食糧生産に向けた進捗を追跡するために不可欠ですが、グローバルで一貫し、かつ、地域レベルの空間解像度を持つデータによる時系列解析はありませんでした。このことから、筆者らは、衛星データの時系列データから得られた21世紀最初の20年間の世界の農地面積の変化の分析を行っており、以下に論文を要約します。

2019年の世界の農地面積は1,244 Mhaで、55 %がユーラシア大陸、17 %がアフリカ、16 %が北中米、9 %が南米、3 %がオーストラリアとニュージーランドと推定しています。また、21世紀の最初の20年間で、世界の農地面積は102 Mha増加しました。これは2003年の農地面積の9 %に相当し、主にアフリカと南米での農業拡大が原因とのことです。世界の農地拡大は過去20年間に加速しており、特にアフリカでは年間の拡大率が2倍近くになっています。新しくできた農地面積の半分(49 %)は自然の植生や樹木からで、森林減少と自然生息地の劣化を阻止するというSDGs目標15(陸の豊かさも守ろう)との矛盾を示しています。

2019年の農地面積に対応する年間の純一次生産力*(NPP)を見てみると、5.5 PgC/yearと推定されており、農地の拡大に伴い、農地由来のNPPは25 %増加していました。2003年から2019年にかけて、人口増加により一人当たりの農地面積は10 %減少しているのに対して、農地利用が強化された結果、一人当たりの年間農地NPPは3.5 %増加しているとのことです。

今回の発表データは、地域、国、国際レベルで実際に耕作されている農地面積を表しています。FAOによる国別報告書には、未利用の耕地やその他の農業用地が含まれている場合があるため、今回の結果を森林変化や地表水量など他の高空間・時間分解能データと統合することで、人間が引き起こした環境変化の包括的な概要を提供し、SDGsに向けた各国の進捗を評価するのに役立つとしています。

 

農業は土地利用変化の最大の要因であり、かつ生物多様性喪失の最大の原因でもあります。農地面積の拡大を反転するには、既存の農地からの生産性を持続的に向上していくこと、持続的農業集約化が重要です。途上国小規模農家システムにおける既存の農地からの生産性を向上するために、現地の土壌・気候条件にあい、かつ、農家に受け入れやすい形での品種改良・栽培技術の開発を行うことは、途上国の食料栄養安全保障にとどまらず、農地拡大による森林破壊や生態系喪失を回避する上でも重要な意味を持ちます。

 

* 純一次生産力(NPP):植物の光合成によって1年間に新しく生産されたバイオマスの総量。単位はPgC/year(ペタグラム炭素/年。ペタグラムは10億トン)

Potapov, P., Turubanova, S., Hansen, M.C. et al. Global maps of cropland extent and change show accelerated cropland expansion in the twenty-first century. Nat Food 3, 19–28 (2022). 
https://www.nature.com/articles/s43016-021-00429-z

(文責:情報広報室 金森紀仁)

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