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268. 新型コロナウイルス感染拡大が世界に与えた食料安全保障と栄養へのインパクト

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新型コロナウイルス感染症が、これほどまでに私たちの生活を変化させるとは、ほんの1年半前には誰も想像すらしなかったことでしょう。新型コロナの影響は広範囲に及び、健康被害はもとより、雇用や所得への影響、教育機会の損失など、多くの負の影響が報告されており、SDGs達成見込みにも暗雲を立ち込めさせています。食料安全保障・栄養に与えた影響には、インパクトが波及する複雑なシステム・チャネルが絡んでいます。

新型コロナは、国際貿易における需給・備蓄ショック、サプライチェーンの寸断・混乱、また経済危機による所得減や格差拡大による食料入手手段の喪失を通じ、特に脆弱な社会層の食料安全保障・栄養に対する脅威となりました。保健サービスの縮小や学校閉鎖、ジェンダー不平等なども間接的に影響を及ぼしました。

低中所得国では公共交通機関の利用制限や移動規制により、農業普及員の指導機会、種子や化学肥料など投入材の入手や、販売市場へのアクセス等において、様々な困難に直面したことが報告されています。流通では社会的距離に起因するリードタイムの増加、労働力の減少、検査・検疫の増加、運用コストの上昇などの影響がみられました。

特に生鮮食品に対して物流寸断の影響は明確な形で現れました。腐りやすい性質から、流通の停滞により都市部の人々が生鮮食品を入手できない一方で農村部では行き場を失った食品を廃棄するという現象も起こりました。さらに消費者のパニック買いなどの行動によって、安価なエネルギー源(不健康な加工食品など)の消費が促進され、栄養豊富な食品の消費量が減少しました。実際、高所得国・低中所得国の両方で、果物、野菜、乳製品、肉などの栄養価の高い食品の消費量が減少したことが報告されています。このような傾向は、カロリー不足の増加よりむしろ微量栄養素欠乏症などにつながる食事の質の低下という意味で栄養問題を悪化させる可能性があります。

今日、世界78億人の人々の多くが程度の差こそあれグローバル・フードシステムに依存しています。新型コロナを機に、グローバル・フードシステムの抱えるリスクが着目されるようになりました。新型コロナは人獣共通感染症(動物由来感染症)の1つであり、農地開墾などにより野生生物の生息地に踏み入り接触する機会が生じること、また生物多様性の喪失により希釈効果 が薄れヒトへの感染リスクが高まることなどがパンデミック発生の遠因といわれます。生物多様性喪失にはフードシステムも一役買っており、環境面からも、新型コロナはフードシステムが元々抱えていた脆弱性と不安定性を晒すことになりました。

これまで、大量生産体制により安価に提供されるようになった主要穀物と比べ、果物・野菜等の健康的な食品への投資は不十分でした。国際貿易の持続性・効率性・強靭性の向上と同時に、人類・地球の健康の観点から、今後、栄養に富む作物・食品開発を中心としたローカル・フードシステム展開のための投資を重点化していくことが求められるでしょう。健康的な食生活と地球環境の持続性を両立するフードシステムへの変革に向けて国際社会が早急に連携し取り組むことが、将来の食料安全保障・栄養供給を一層強固なものにするために必要だと考えられます。

詳しくは、一般社団法人全国農業会議所が発行する『農政調査時報』2021春・585号をご覧ください。


参考文献

白鳥佐紀子・飯山みゆき「新型コロナウイルス感染拡大が世界に与えた食料安全保障と栄養へのインパクト」、農政調査時報、2021春・585号、pp.2-10

(文責:情報広報室 白鳥佐紀子、情報プログラムディレクター 飯山みゆき)