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760. 世界の農地における窒素汚染の効果的な回避策
760. 世界の農地における窒素汚染の効果的な回避策
作物の生産には養分が必要です。中でも大気中に安定して存在し、自然界を循環する窒素は植物の成長にとって必要不可欠です。20世紀初頭に効率的にアンモニアを製造する方法が発明されたことで、窒素肥料の使用は増大、食料生産を飛躍させ、人口増加をもたらしてきました。一方、農地における化学肥料の過剰使用は自然界をめぐる窒素循環のバランスを乱し、作物が吸収しきれない窒素が硝酸イオンに変化して地下水や河川の汚染をもたらしたり、温室効果ガスである亜酸化窒素となって地球温暖化の原因をもたらしています。窒素汚染の削減が緊急に求められていますが、世界中に散らばる何百万もの大小の農地を対象とした対策には大きな課題が伴います。
今年のはじめ、Nature誌に公表された論文は、過去20年間における世界中の1,521の農地からの報告を精査し、作物収量を10-30%向上し、窒素利用効率を10-80%改善しつつ、農地からの窒素の大気・水への流出を30-70%削減しうる11の施策を見出しました。
論文著者らは、これらの11の施策を3つの階層(Tiers)に分類しました。
Tier 1: 窒素追加型アプローチ(N addition approaches)
- 強化肥料(EEF: enhanced efficiency fertilizers)
- 土壌改良剤(soil amendment)
- マメ科作物との輪作(Legume)
- 緩衝地帯(Buffer Zone)
Tier 2: 適正な量・タイプ・時・場(4R)アプローチ(4R nutrient stewardship, that is, the right rate, type, time and place of fertilizer application)
- 作物のニーズに合わせた施肥量の最適化(Rate)
- 尿素から硫酸アンモニウム・硝酸アンモニウム+石灰へのシフト(Type)
- 作物のニーズに合わせた施肥タイミングの分割(Time)
- 窒素肥料施肥の深さ調節(Placement)
Tier 3: 新品種・最適灌漑・耕起の導入(the introduction of new cultivars, optimal irrigation and tillage).
- 持続的な窒素管理を支える栽培戦略に適した新品種の導入(New Cultivar)
- 点滴灌漑に液体肥料を組み合わせるファーティゲーション(Irrigation)
- 不耕起栽培など(Tillage)
論文は、国際社会はこうした施策の適用は、食料供給や健康上の便益を享受しうるだけでなく、化学肥料の削減を通じて緩和コストの削減効果も期待しうる可能性を示しました。論文著者らは、農地からの窒素汚染の回避を促すため、措置の採択に対するインセンティブを与える窒素クレジット・システムや、必要に応じて補助金を提供するなど、革新的な政策の実施を提案しました。
(参考文献)
Baojing Gu et al, Cost-effective mitigation of nitrogen pollution from global croplands, Nature (2023). https://www.nature.com/articles/s41586-022-05481-8
(文責:情報プログラム 飯山みゆき)