西アフリカ・サヘル地域の農村における農地-集落系の窒素フローの評価
西アフリカ・サヘル地域では、農地から村に持ち込まれる収穫窒素物の66%は粗放管理畑に依存しているが、粗放管理畑への窒素供給は風成塵のみであり、窒素投入量から窒素持ち出し量を差し引いた値はマイナスである。一方、村からの廃棄物、家畜糞尿、屎尿は全て村に近い畑に投入されるため、これらの畑では4~13 t N 年-1(7~245 kg N ha-1 年-1)の窒素過剰となり、系内に窒素の偏りが生じ、少ない窒素資源が効率的に利用されていない。
背景・ねらい
西アフリカ・サヘル地域では農業生産向上のための土壌肥沃度管理技術開発が必要である。低肥沃な砂質土壌を適切に管理し農業生産性を高めていくには、まず在来の有機物資源を効率的に利用していく必要があり、そのため有機物資源量の評価を行うことが重要である。そこで本研究では、2003年以来行われているJIRCAS交付金プロジェクトの研究サイトであるニジェール・ファカラ地区において、在来の農地管理システムに沿った窒素フローを推定し、現状における集落-農地系の資源利用状況を評価する。
成果の内容・特徴
- ファカラ地区の農地は大きく分けて3つの管理区分が存在することが分かっている。即ち、リサイクリング(家庭からの有機廃棄物の農地還元)による農地管理、コラリング(遊牧民の家畜を夜間農地に係留して糞尿を還元)による農地管理そして休閑による粗放的な農地管理であり、リサイクリングは更に、隣接畑、脱穀畑、そして運搬堆肥畑に細分される。農地の84%が粗放管理に属する。
- 総生産、脱穀残渣、運搬堆肥、風成塵は実測値を用い、家畜排泄物は現存頭数から推定した。総生産物の用途は、聞き取り調査で割合を求め、それ以外は文献値で推定した。
- 農地からの持ち出しは、トウジンビエ、ササゲ豆およびハイビスカスの子実(食料)、茎葉(家畜飼料・建築材)および野草(家畜飼料)である。収穫物のほとんど(窒素換算で66%)は粗放管理畑から持ち出されているが、当該農地に供給される窒素は風成塵のみで非常に少ない。このため、粗放管理畑では-65 t N 年-1(-9 kg N ha-1 年-1)の窒素収奪となる。
- 村の廃棄物は(建築材として利用されるトウジンビエ茎の廃物)は家畜糞尿と伴に運搬堆肥として村に近い畑に投入される。ただし、家畜糞尿の利用率は非常に低く、農地に還元される量は僅かである。脱穀残渣、屎尿も村に近い畑に投入される。村に近い畑では、これらの投入による窒素供給量が作物収穫による窒素収奪量より多い。このため、村に近い農地では4~13 t N 年-1 (7~245 kg N ha-1 年-1)の窒素過剰となっている。
- ファカラ地区の持続的生産を実現するためには、現地にある未/低利用の有機物を適切に使った肥培管理や栽培システムが必要である。
成果の活用面・留意点
新しい資源管理手法を導入する際、養分資源の利用効果を定量的に評価できる。
具体的データ
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*屎尿の値は文献値を参考に推定した。それ以外は、実測値に基づき算出した。
**ファカラ地区は人口5,825人、農業従事者割合100%、家畜頭数5,874頭(牛2,564頭、ヒツジ1,433頭、ヤギ1,874頭)(2006年の調査に基づく)
***図中三角形上段:農地区分名、中段:農地面積(ha)、下段:窒素収支 (t 年-1)、フローの数字:窒素量(t 年-1)
- Affiliation
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国際農研 生産環境領域
- 分類
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研究B
- 予算区分
- 交付金[アフリカ土壌プロ]
- 研究課題
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西アフリカの半乾燥熱帯砂質土壌の肥沃度の改善
- 研究期間
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2009年度(2003~2010年度)
- 研究担当者
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林 慶一 ( 生産環境領域 )
松本 成夫 ( 生産環境領域 )
伊ヶ崎 健大 ( 京都大学 )
科研費研究者番号: 70582021真常 仁志 ( 京都大学 )
ORCID ID0000-0002-7244-9558科研費研究者番号: 70359826飛田 哲 ( 生産環境領域 )
- ほか
- 発表論文等
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Hayashi et al. (2009) JARQ 43 (1):63-69
林ら (2009) 日本土壌肥料学会講演要旨集55:14
- 日本語PDF
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2009_seikajouhou_A4_ja_Part13.pdf225.84 KB