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531. 食料システム・気候変動・土地劣化

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531. 食料システム・気候変動・土地劣化

5月5日、2022年の世界食糧賞(World Food Prize)は、NASAの気候学者であるDr. Cynthia Rosenzweigに与えられることが発表されました。
 
Rosenzweig博士は気候変動の食料生産へのインパクトのモデル化におけるパイオニア的な研究で知られています。とりわけ、気候と食料システムの関係についてのモデルを研究する世界的な異分野連携ネットワークを立上げ、気候変動下における農業・食料システムの将来のパフォーマンスの予測を向上することで、食料システム転換に必要なエビデンスを提供することに貢献されてきました。

食料システムは気候変動だけでなく、生産・加工・輸送・消費活動を通じ、土地劣化や生物多様性喪失の原因にもなっています。4月27日、国際連合砂漠化対処条約(UNCCD)は、Global Land Outlookを公表、人類の活動が土地にかつてない負荷をもたらしている、と警鐘を鳴らしました。

報告書によると、人類による活動は地表の70%を改変し、そのうちの20-40%を劣化させています。報告書は、もし現状のままであれば、2050年までに南米の面積に匹敵する1600万平方キロメートル相当の土地が劣化しかねない、と警鐘を鳴らしています。対照的に、もし世界が土地保全・回復を最優先課題とすれば、気候変動と生物多様性喪失の解決とともに、あらたな自然保護地域400万平方キロメートルの創出につながる、としました。報告書は、世界の指導者に対し、現代ほど人類が危機に瀕している状況はなく、この危機を土地劣化問題解決の足掛かりにすべきと訴えています。

報告書は、土地劣化を反転し回復するには、小規模農家・コミュニティやビジネス・企業の老若男女問わず、全ての関係者の所得を向上し、食料・水安全保障を強化し、個人・コミュニティの脆弱性を克服し、持続的な生活機会を創造する必要性を訴えます。現地関係者の関与なきトップダウン的な解決策は成功せず、信頼関係に基づくネットワークを通じ、土地の健康度の回復と雇用創造をつなげるあらゆる資本の動員が求められます。報告書は、土地保全アプローチの実践について、次のように述べています。

土地回復は、その規模の観点から、圃場レベルでの様々な保全技術の適用から、ランドスケープレベルでの生物多様性や分水嶺保全など数ヘクタールから数千平方キロメートルに及ぶ場合もあります。土地保全は、温室効果ガス排出を減らすだけでは十分でなく、より持続的な生産・消費へのシフトと合わせ、食料・エネルギー安全保障目標と整合的に統合される必要性があります。

農業は重要な経済セクターですが、リジェネレイティヴで、自然資源を枯渇・破壊させないネイチャーポジティブな食料生産への移行が必要とされています。アグロエコロジカル・アプローチやリジェネレイティヴ・プラクティスは、土壌を豊かにし、水の循環を向上し、生物多様性を改善することを掲げています。これらの包括的なアプローチの多くは、伝統的で現場に根差した知識に基づき、持続的開発の社会・経済・環境的な側面を食料生産に取り入れることを目指しています。リジェネレイティヴ・アグリカルチャーの効果を発揮するには、エビデンス・知識・科学に基づき、現地のニーズ・コンテクストを配慮することが求められます。より具体的には、現地の生物学的(気候、土壌、傾斜、病害虫の蔓延度、など)や社会経済的(農地サイズ、土地保有形態、市場、資本のアベイラビリティーなど)条件の理解と配慮を要します。実践には、各地域・農家・圃場レベルごとに、リジェネレイティヴな措置を様々に組み合わせていくことになるでしょう。多くの小規模生産者にとり、とりわけ土壌劣化の条件下にある地域では、耕畜連携・多様化が強靭性・生産性を改善しつつ、環境リスクを削減することに繋がるでしょう。

(参考文献)
United Nations Convention to Combat Desertification, 2022. The Global Land Outlook, 
second edition. UNCCD, Bonn. https://www.unccd.int/resources/global-land-outlook/global-land-outlook…

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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