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1168. 2024年を振り返って

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1168. 2024年を振り返って

 

2024年も国際農研Pick Upをご訪問くださり、ありがとうございました。

今日のPick Upは、今年アクセスの高かった記事から、2024年の食料システムをめぐるトレンドを読み解きたいと思います。

 

まず断トツでアクセス数が高かったのが7月に公表された国連世界人口推計です。2024年現在約82億人の世界人口は2080年代半ばに103億人でピークを迎えますが、人口動態の地域差も浮き彫りにし、日本など先進国の一部では既に人口減少のフェーズに入る一方、今後数十年間人口増加が予測される国もあり、持続可能な開発促進における資源配分最適化の課題をつきつけました。
1059. 国連世界人口推計2024年版 www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240712

 

次に、食料安全保障・食料危機に関する報告書もアクセスを集めました。
1010. 2024年食料危機グローバル報告書 www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240502 
1070. 報告書「2024年世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240730 

SOFIによると、世界で低栄養問題に直面する人々の割合は、COVID-19パンデミックを機に急増したあとも3年連続して高止まりし、2023年時点にて世界で11人に一人に相当する7.13億人~7.57億人の人々が飢餓に直面しています。気候変動・紛争・経済不況といった要因が、2030年までにSDG2飢餓ゼロを達成する可能性に影を落としています。

 

2024年はまた、2023年に記録した観測史上最も暑い年を更新する可能性が報じられており、その原因として昨年来~今年初めまでのエルニーニョに加え、人為的な気候変動のもとでの温室効果ガス排出の影響が指摘されています。
997. 2023年の温室効果ガス排出量と気候政策www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240412 
1100. 2024年夏は史上最高に暑かったwww.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240918 
994. 人為的な温室効果ガス大気濃度が2023年も引き続き上昇傾向 www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240409 
1135. 2024年は観測史上最も暑い年になる見込み www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20241111

 

実際、気候変動のもと、昨年来に続き2024年も世界中で熱波や洪水などの異常気象が頻発化しましたが、商品作物に関しても生産への影響を通じて価格上昇や産地・品質の変化をもたらしていることが注目されました。
998. 気候変動とチョコレートwww.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240415 
992. 気候変動によるワイン生産への影響www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20240405 

 


以上、2024年のPick Up注目記事からは、世界食料安全保障・食料システムの動向を左右する要因として、増える世界人口と人口動態の地域差、飢餓ゼロ達成を阻む気候変動・紛争・経済不況、気候変動インパクトの現実化、といったトレンドが浮き上がりました。こうした課題を背景に、今年、国際農研は関係機関との協力のもと、世界的に著名な専門家をお招きし、食料システムの現状・将来展望を踏まえ、世界食料安全保障を達成するための戦略についてご講演いただきました。
1145. FAOチーフエコノミスト特別セミナー アーカイブ動画の公開https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20241125
1146. 世界食糧賞受賞者キャリー・ファウラー博士特別シンポジウム アーカイブ動画の公開https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20241126

 

FAOチーフエコノミストであるトレロ氏は、飢餓撲滅に関するG7やG20のイニシアチブの紹介を兼ね、気候・政治的ショックに対する先見的な対応が便益費用上でもSDG2の達成に極めて効果的であることを示されました。また現世代および将来世代の食の権利を保障するための生産性向上と公正な移行を実現するにあたり、環境・食料・持続性という様々な課題に同時に取り組むための優先的投資介入分野・ベストプラクティスを紹介していただきました。

気候変動が加速する世界においては、作物の多様性と遺伝資源の保全が将来の植物育種や作物改良に不可欠となります。2024年世界食糧賞受賞者であるキャリー・ファウラー博士からは、作物遺伝資源保全に先見的に取り組まれてきた経験をお話しいただき、さらに、強靭な食料システムの2つの基盤である作物と土壌の潜在能力を解き放つための国際イニシアチブを中心になって立ち上げた背景について解説いただきました。

 

実際、地球沸騰化(global boiling)時代において強靭で栄養に富んだ食料システム構築を実現するには、遺伝資源の多様性を利用していくための科学的知見と制度整備が必要です。今年のJIRCAS国際シンポジウムでは、この分野で長らく最先端の研究を行ってきた国際農研およびパートナーとで、レジリエント遺伝資源の機会と課題に関する議論を行いました。
JIRCAS国際シンポジウム2024地球沸騰化時代におけるレジリエント遺伝資源の機会と課題
https://www.jircas.go.jp/ja/symposium/2024/e20241122_jircas

 


今後、気候変動による異常気象や各地での地政学的紛争の勃発は、食料システムをめぐる不確実性をますます高めています。世界食料安全保障を維持するためには、危機を見越した先見的な対策を講じるための情報収集分析発信を強化する必要があります。

国際シンポジウム:気候変動が世界の食料需給に与える長期的影響と食料安全保障
https://www.jircas.go.jp/ja/event/2024/e20241205

 

こうした科学的情報に基づき、生物多様性・水・食料及び健康のネクサスを意識し、イノベーション・科学‐政策対話・行動変容による全方位的な対策が求められていきます。

 

2025年も世界食料安全保障をめぐる最新の科学的知見について情報発信をしていく予定です。2024年は1月6日よりPick Upを再開する予定です。

 


(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 


 

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