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705. 地球システムにおけるティッピング・エレメントの遠隔相関

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705. 地球システムにおけるティッピング・エレメントの遠隔相関

気候変動に関する議論では、人為的な活動のせいで、地球が次第に不可逆性を伴うような大規模な変化を伴う転換点(tipping point-注:温室効果ガスなどの変化が少しずつ蓄積していった結果、ある時点を境に劇的な変化を起こす現象)に達しつつあるとされています。転換点に達することで、ドミノ倒し的に不測の事態が制御不可能になる地球の緊急事態(Planetary Emergency)に陥る危機が懸念されています。

地球システムにおいて、ティッピング・ポイントを超えてしまいそうな大規模なサブシステム(ティッピング・エレメント:“tipping element” )として、グリーンランドの氷床融解をはじめ、永久凍土の融解、南極氷床の融解、アマゾン森林破壊、などが挙げられています。先日の記事にて、世界の色々な地域での氷床・氷河の融解が進行していることを示す研究を紹介しました。こうした事象は、一見バラバラに見えますが、地球システムにおいて遠隔相関(teleconnection)し、一つのサブシステムにおける臨界状況が他のサブシステムに波及して、ドミノ倒し的な影響をもたらし、気候システムに予期しないような影響を及ぼす可能性があると指摘されています。ただし、一つ一つのシステムの臨界状況が他の地域に影響を及ぼす仕組みについては、まだわからないことが多いようです。

最近Nature Climate Change誌で公表された論文は、ティッピング・エレメントの一つ、アマゾン熱帯雨林が転換点に達すると、そこから一見遠く離れたチベット高原に波及し、多大な影響を及ぼす可能性(tipping cascade)を指摘しました。論文のモデルによると、気候変動の下で、アマゾン熱帯雨林とチベット高原の様々な異常気象の間で強く相関がみられるというのです。また論文は、チベット高原の積雪が2008年以降喪失を続けていることを示しました。 

最近の議論では、ティッピング・ポイントは1-2℃の気温上昇で起こりかねないとされています。それ故に、パリ協定では温暖化を2℃以下、可能な限り、1.5℃以下に抑制ことが謳われています。ティッピング・エレメントが遠隔相関するということは、気候変動対策に国境はないことを意味し、国際的なゴールに向かい、各国が協調して野心的な行動をとること求められます。

 

(参考文献)
Liu, T., Chen, D., Yang, L. et al. Teleconnections among tipping elements in the Earth system. Nat. Clim. Chang. 13, 67–74 (2023). https://doi.org/10.1038/s41558-022-01558-4

 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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