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919. グローバル・ティッピング・ポイント

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919. グローバル・ティッピング・ポイント

 

気候変動に関する議論では、人為的な活動のせいで、地球が次第に不可逆性を伴うような大規模な変化を伴う転換点(tipping point-注:温室効果ガスなどの変化が少しずつ蓄積していった結果、ある時点を境に劇的な変化を起こす現象。臨界点ともいう)に達しつつあるとされています。

ティッピング・ポイントは、小さな攪乱要因によりシステムの状態が質的に変わってしまう閾値とも定義されます。さらに研究者らは、地球システムにおいて、ティッピング・ポイントを超えてしまいそうな大規模なサブシステムをティッピング・エレメント(“tipping element” )と定義しました。 とりわけ人為的な経済活動に起因する地球温暖化等によって影響を受けるティッピング・エレメントとして、グリーンランドの氷床融解をはじめ、永久凍土の融解、南極氷床の融解、アマゾン森林破壊、などが挙げられています。

世界的に著名な研究者らが取りまとめたグローバル・ティッピング・ポイント報告書は、温暖化によって、複数のティッピング・ポイント超えが加速する可能性を指摘しました。そのメッセージを紹介します。 

システムの崩壊は互いに相関しあい、グローバル化社会を通じて不可逆的な変化が雪崩的に生じ、幾つかの国の適応能力を超えた災害を引き起こし、我々の社会の安定性を脅かす可能性が懸念されています。例えば、大西洋南北熱塩循環の崩壊と地球温暖化が組み合わさることで、世界の小麦・メイズ生産地の半分が失われる可能性もあります。

ネガティブなティッピング・ポイントのドミノ倒し現象による危機を回避するために、温室効果ガス排出削減と自然回復を加速するために社会・経済システムを抜本的に変革することが喫緊の課題です。変革をもたらすうえで、社会における好ましい変化が自律的に起こるようなポジティブなティッピング・ポイントを誘因することが必要です。人類史上、急激な技術・社会変化はたびたび起こってきました。再生可能エネルギーや環境ジャスティスの盛り上がりなど、近年も好例があります。

残念ながら、適切なガバナンス・アクションが実現するまでの時間差により、ネガティブなティッピング・ポイントが誘因されることは避けられないかもしれません。

ティッピング・ポイントの存在は、従来通りのやり方が通用せず、自然と社会により急激な変化が起こりうることを意味しています。ガバナンスの在り方を見直さなければ、自然界の破綻が我々の社会を圧倒していくことになりかねません。
極めて大きく偏った社会的インパクトをもたらす災厄の影響を最小化するため、ポジティブなティッピング・ポイントをもたらすよう、より持続的で公平な繁栄を享受しうる強靭な社会の構築が求められます。

 

(参考文献)
T. M. Lenton, D.I. Armstrong McKay, S. Loriani, J.F. Abrams, S.J. Lade, J.F. Donges, M. Milkoreit, T. Powell, S.R. Smith, C. Zimm, J.E. Buxton, E. Bailey, L. Laybourn, A. Ghadiali, J.G. Dyke (eds), 2023, The Global Tipping Points Report 2023. University of Exeter, Exeter, UK. https://global-tipping-points.org/ 

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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