Pick Up

695. グローバル・リスク2023

関連プログラム
情報

 

695. グローバル・リスク2023

世界経済フォーラム(WEF)が毎年1月に公表するグローバル・リスク報告書は、世界の指導者達の視点から地球規模問題の動向を占ううえで注目されています。

新型コロナウイルスが中国から世界に拡散しつつあった2年前に発表された2020年グローバル・リスク報告書は、次の10年間に起こり得るグローバル・リスク上位5件全てに環境問題・気候変動リスクを挙げていました。2021年は、パンデミックの1年間を経て、最大のインパクトを伴うリスクとして感染症が1位にランクしました。2022年の報告書は、パンデミック開始後に社会・環境リスクが悪化し、とりわけ「社会的結束の弱体化」や「生活の危機」が懸念の上位にランクしました。

2023年報告書は1月11日に公表されました。報告書は、COVID-19危機に続くニューノーマル時代で幕を開けた2020年代が、ウクライナ戦争勃発による食料・エネルギー危機の連鎖もあいまって、古いタイプおよび新しいタイプの環境・社会的リスクに直面していると述べます。古いタイプのリスクには、インフレ・生活費上昇危機・貿易戦争・新興市場からの資金逃避・社会不安の広がり・地政学的衝突・核戦争の亡霊、といったこれまでも経験してきた危機が含まれます。一方、新しいリスクとして、非持続的な債務水準・低成長・世界的な低投資と反グローバル化・数十年間の進歩を帳消しにする人間開発の悪化・急激で聖域なき軍民利用技術の展開・気候変動インパクトの増幅・縮小する温暖化1.5℃抑制機会、が挙げられました。

次の2年間の短期において最も厳しいリスクと見なされるのが生活費上昇危機であり、自然災害や異常気象、地政学的・経済的衝突、が続きました。10年間というスパンで来るべきリスクのトップ10には、気候変動緩和の失敗、気候変動適応の失敗、自然災害・異常気象、生物多様性喪失とエコシステムの破綻、自然資源危機、大規模な環境ダメージ、と6つの環境リスクがランクインしました。2年間・10年間の双方のスパンにおいて、サイバークライムの問題、および大規模な非自発的移住、が新たにランクインしました。

報告書は、同時発生するショック、深く相互関連しあうリスク、そして強靭性の弱体化が、複合的な危機(ポリクライシス:polycrises)のリスクを加速化させる可能性を指摘しました。ポリクライシスとは、個別の危機が相互作用することで増幅し、インパクトが個別危機の総和を超えてしまうケースを指すとのことです。地政学的な協力体制の弱体化は、中期的にグローバルなリスク分布に波及効果をもたらし、自然資源の需給を巡り、環境・地政学的・社会経済的リスクの相互作用による複合的な危機を引き起こす可能性があります。水を巡る戦争や飢餓、生態系の搾取、気候変動緩和・適応の遅れ、など、食料・水・金属・鉱物の不足は、人的・生態学的危機を引き起こしかねません。同時に、経済見通しが悪化する中、政府にとって社会・環境・安全保障に同時に対応するにはトレードオフが生じます。報告書は、グローバル・リスクの相互関係に関する不確実性を鑑みて、将来予測の試みは実際に危機が発生する前にダメージの規模・範囲の最小化を可能にするとし、様々な危機を想定し、複数のリスクへの対応を可能にするコ・ベネフィットを伴う投資の必要性を提起しました。

(参考文献)
The World Economic Forum. The Global Risks Report 2023, 18th Edition. https://www3.weforum.org/docs/WEF_Global_Risks_Report_2023.pdf

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

関連するページ