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215. グローバル・リスクについての戦略的洞察の必要性

 

世界経済フォーラム(WEF)が毎年1月に公表するグローバル・リスク報告書は、世界の指導者達の世界の捉え方の視点の変遷を捉える意味から、地球規模問題の動向を占ううえで注目されています。


昨年1月に発表された2020年グローバル・リスク報告書は、報告書の調査開始以来初めて、次の10年間に起こり得るグローバル・リスク上位5件全てに環境問題・気候変動リスクを挙げました。


一方、2021年報告書は1月19日に公表されました。概要を紹介すると、過去1年間に起きたコロナ・パンデミックを反映し、最大のインパクトを伴うリスク(top risks by impact)として、感染症を1位にランクしました。このあと、気候変動対応策の失敗(2位)、大量破壊兵器(3位)、生物多様性喪失(4位)、自然資源危機(5位)が続きます。コロナ禍が多くの人命を奪うだけでなく、史上最悪規模の世界同時経済不況を伴い、近年の貧困削減や格差是正の進歩を後退させ、社会の亀裂を広げ国際協力へ深い溝をもたらしたことを踏まえれば、その結果も当然のことでしょう。他方、今後起こり得るリスク(top risks by likelihood)のランキング上位には、4位の感染症とともに、極端気象(1位)、気候変動対応策の失敗(2位)、人為的な環境破壊(3位)、生物多様性喪失(5位)等、環境・気候変動関連のリスクが占めました。


報告書は、コロナ禍がデジタル化を推し進める契機となる一方でデジタル格差を拡大しつつあること、若者世代が就職氷河期に直面する懸念にも言及しました。また、危機に対し、分析フレームワーク、新たなパートナーシップの模索、明確で一貫したコミュニケーションを通じた信用の醸成、の必要性を述べ、各国やビジネスがリスクに直面した際に「反応react」ではなく「行動act」を促すための提言を行いました。


国際農研は世界食料栄養問題に関する地球規模課題について体系的な情報収集・提供を行っています。WEFのグローバル・リスク報告書2021年版の序文では、暦年の報告書でもグローバル化に伴う「死に至る流感」流行と感染抑制のための世界的な貿易流通寸断・産業への壊滅的な影響について議論されていたことに触れ、戦略的な洞察の重要性を述べています。最近Global Food Security誌で公表された論文も、農業・フードシステムの未来を導く上で、戦略的洞察力(strategic foresight)の必要性を強調しています。 近年、気候変動による農業への慢性的な影響、緊急の気候変動に伴う脆弱性、あるいはCOVID-19に伴うグローバル・フードシステムの寸断など、常に新しい課題が発現しています。農業、フードシステムを突き動かす要因は空間・時系列的に多様であり、万能な対処法はなく、マクロ・レベルでの洞察に基づき、ローカルな解決策を模索する必要があります。国際農研はグローバル・フードシステムの戦略的洞察に関する体系的な情報発信と、量的・質的な動向分析を通じ、国際農業研究についての戦略ついて提言を行っていきます。

 

参考文献

World Economic Forum. The Global Risks Report 2021.  https://www.weforum.org/reports/the-global-risks-report-2021 
(なお、概要に関する本翻訳は、World Economic Forumから公式に承認を受けたものではなく、翻訳上の誤りなどの責任は文責にあります。)


Steven D. Prager, Keith Wiebe, Strategic foresight for agriculture: Past ghosts, present challenges, and future opportunities, Global Food Security, Volume 28, 2021,
https://doi.org/10.1016/j.gfs.2020.100489 
(文責:研究戦略室  飯山みゆき)