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362. 気候変動の転換点(tipping point)

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362. 気候変動の転換点(tipping point)

8月20日、グリーンランドの氷山山頂にて、8月14-16日にかけ、1950年に観測が始まって以来初めて降雨が観測されたと報告されました。報道によると、7月、グリーンランドの氷床の融解が進み、米フロリダ州を覆うに相当する水が溶けだしたとのことです。

先日公表されたIPCC報告書では、科学者らが、最新の気候科学に基づき、気候変動が加速している結果、極端現象等の頻発化が予測されることを警告しました。 気候変動に関する議論では、人為的な活動のせいで、地球が次第に不可逆性を伴うような大規模な変化を伴う転換点(tipping point-注:温室効果ガスなどの変化が少しずつ蓄積していった結果、ある時点を境に劇的な変化を起こす現象)に達しつつあるとされています。突然の不可逆的な変化をもたらすティッピング・ポイントを回避するために、温室効果ガス排出を削減する政治・経済的なアクションがもとめられています。気候変動のティッピング・ポイントとは具体的に何を意味するのでしょうか。2019年のNature論考を参照し、 整理しておきたいと思います。

ティッピング・ポイントは、小さな攪乱要因によりシステムの状態が質的に変わってしまう閾値とも定義されます。さらに研究者らは、地球システムにおいて、ティッピング・ポイントを超えてしまいそうな大規模なサブシステムをティッピング・エレメント(“tipping element” )と定義しました。 とりわけ人為的な経済活動に起因する地球温暖化等によって影響を受けるティッピング・エレメントとして、グリーンランドの氷床融解をはじめ、永久凍土の融解、南極氷床の融解、アマゾン森林破壊、などが挙げられています。


2019年の論考では、北極・南極の氷床融解に加え、グリーンランドの氷床融解も加速していることに言及していました。グリーンランドの氷床融解が進み、氷床の標高がいったん低くなると暖かい空気に触れることで融解が加速します。気候モデルによると、グリーンランドの氷床は、1.5℃の温暖化で加速し、それは2030年にも起こりかねないとしていました。 

一つのサブシステムにおけるティッピング・ポイントは他のサブシステムに波及して、ドミノ倒し的な影響をもたらします。既に北極の温暖化は世界の平均よりも2倍速度で進んでいますが、こうした変化は寒帯林の脆弱性を高めます。既に温暖化は、北米やシベリアでの森林火災の頻度を増加させ、こうした地域を炭素吸収源から排出源に転換させかねません。永久凍土の融解は、二酸化炭素だけでなく、二酸化炭素の30倍温室効果があるメタンの大量発生を引き起こしかねません。

もともと、IPCCが20年ほど前にティッピング・ポイントという概念を導入した際には、気候システムの大規模な非連続性が起きるのは温暖化が産業革命と比べて5℃以上超える場合と想定されていたそうです。しかし、最近のIPCC議論では、ティッピング・ポイントは1-2℃の気温上昇で起こりかねないとしています。これを受け、パリ協定では温暖化を2℃以下、可能な限り、1.5℃以下に抑えようという方向になっています。


参考文献
Lenton, T. M. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 105, 1786–1793 (2008). https://www.pnas.org/content/105/6/1786 
Lenton TM et al. COMMENT Climate tipping points — too risky to bet against. 27 November 2019 Correction 09 April 2020  Nature 575, 592-595 (2019) doi: https://doi.org/10.1038/d41586-019-03595-0

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

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