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459. フードシステム転換のターゲット設定

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459. フードシステム転換のターゲット設定

今日の世界では、穀物の大量生産によりカロリー摂取は安上がりになった一方、野菜や果物といった健康な食材は割高にとどまっています。結果として世界人口の3分の一が健康な食事にありつけていません。不健康な食事は人間の健康だけでなく、温室効果ガスの排出により気候変動の一因ともなり、地球に多大な負荷を与えています。

昨年中のPick Upでも頻繁に取り上げてきましたが、こうした昨今の現状を受け、世界食料栄養問題を取り扱う研究では、生産・消費・バリューチェーンを個別に取り扱うアプローチから、フードシステムの安全性・ネットワーク・複雑さそのものを取り上げるアプローチにシフトしています。人類の健康と環境の持続性をつなぐ中心概念とされるのが、「食生活(Diet)」であり、不健康な食生活を支える大量消費・生産システムの変革を促すための、消費者側の行動様式の転換の必要性が訴えられています。  

昨年9月に開催された国連食料システムサミットでは、環境への負荷をもたらさずに、健康な食を提供しうる食料システムの転換の必要性が議論されました。2021年12月、Nature Food誌に公表された論考は、フードシステム転換においても、気候変動対策におけるパリ協定のような国際的な長期目標の必要性を訴えました。  論考は、11月に行われた気候変動COP26における農業に関する議論が、主に土地利用など供給面に偏ったものであったことに言及し、供給を規定する食への需要・食生活への焦点が不十分であったと述べています。飢餓の撲滅や将来の人口増に備え、持続的な生産性の向上の重要性は疑う余地はありません。しかし論考は、フードシステムの転換には、農業を単に世界市場の需給を満たす手段ではなく、どの食料を・どの程度・どこで・どのような手段で生産するかという視点でとらえる必要性を訴えました。以下、議論を紹介します。

今日、全ての国のフードシステムが世界的に複雑な貿易・市場関係に組み込まれています。このため、一国のみでフードシステムを転換することは不可能であり、政府間の合意に基づいた世界的な協調アプローチが求められます。すなわち、気候変動のパリ協定における「ネットゼロ」目標のような、フードシステム転換のための長期的ゴールの設定が必要となります。システム変化のための共通ゴールや時間軸を設定することで、各国政府は、補助金の見直しや主食作物以外の作物を対象とした農業研究・環境外部性を解消する価格メカニズムの設定など、政策転換のための計画が可能になります。

とりわけ、栄養に優れた低カーボン・フードシステムの構築には、土地や資源を集約的に使用する必要のない食生活へのシフトを促すことで、こうした食品の生産に誘因を与える必要があります。消費者に対し、健康で持続的で栄養に富んだ食の選択肢を保障することで、環境にもやさしいフードシステムの転換が可能になります。

論考は、国連食料システムサミット・COP26を機に、気候変動対策の一環として、2022年に向けて政府が需要側の変化を通じて供給側の課題に対応するというフードシステム転換の問題に取り掛かる必要があると訴えます。同時に、農業を商品作物生産部門とみなす代わりに、人類の健康と厚生を保障する重要な役割の認識向上が必要となります。

(参考文献)
Benton, T.G., Beddington, J., Thomas, S.M. et al. A ‘net zero’ equivalent target is needed to transform food systems. Nat Food 2, 905–906 (2021). https://doi.org/10.1038/s43016-021-00434-2

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)

 

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