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198. イノベーションの組合わせでアグリ・フードシステム転換を

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2020年12月、Nature Sustainability誌で公表された論考(Bundling innovations to transform agri-food systems)  は、アグリ・フードシステム転換のために複数のイノベーションを組み合わせて対応していく必要があるとしました。

20世紀に人類の飛躍を可能にしたアグリ・フードシステムにおける技術・制度的イノベーションは、農業生産・ポストハーベスト製造業と流通・食料消費に至る過程を通じ、増加する人口へのカロリー供給と飢餓回避に焦点を当てたシステムによって、次第に気候・自然環境・公衆衛生や栄養・社会正義に負の影響を及ぼすようになっています。ここまでの成功に対し、今後は、生産性を向上させつつ、貧困削減・健康な食生活の促進・気候変動と生物絶滅危機の回避・強靭性の強化、を目指す必要があります。

その達成には、技術・政策・知識・社会制度・文化的規範という相互作用するイノベーションを組み合わせていくことが必要です。例えば、20億以上の人々を苦しめる微量栄養素不足を解決するには、コンテクストに応じて新たな栄養強化作物品種・普及や商業種子システムの支援・ヨウ素添加塩や栄養強化製粉などの産業奨励・効果的な規制・多様な食生活を支える市場機能・健康な食生活の選択肢を広げる給食や栄養教育、が必要であり、一つの施策のみで成功するケースはありません。「緑の革命」でさえ、殆ど表に出ることのない補助的な政策や社会文化的な要因なくして、広範に普及し社会的インパクトを達成することはなかったでしょう。農村インフラ・普及システム・土地保有制度とともに、社会転換に伴う負の影響から農民や労働者を保護する措置も必要となります。一つのイノベーションだけではトレードオフを生じることがあり、また抵抗勢力を生み出すこともあります。さらに一つの介入では不十分な効果しか生み出せず、補助的介入が必要とされます。

2050年までに65%以上の人々が都市に住むとされていて、付加価値化が進むと考えられています。また、2100年までの人口増の多くと、食料需要増の2分の1~4分の3がアフリカアフリカで起こると予測されています。この人口趨勢を踏まえれば、今後、バリューチェーンとアフリカがイノベーション介入の重点対象となるでしょう。

アグリ・フードシステム転換は大きな先行投資を必要とします。COVID-19パンデミックは政府や民間部門が緊急事態に対して巨額な資金を調達することが可能であることを示しました。政府は、現在むしろ自然環境破壊や格差拡大につながりイノベーション停滞に貢献しているような農業補助金を、アグリ・フードシステム転換に必要な社会保護プログラム・フードシステム研究・農村でのブロードバンドアクセスと適切な規制を含む物的かつ制度的インフラに振り替えることで、民間投資を呼び込むことが可能です。

国際農研は、開発途上地域の地域資源等の活用と高付加価値化技術の開発や、アグリ・フードシステム転換の必要性を含む情報提供を行っています。

 

参考文献

Nature Sustainability Editorial Published: 10 December 2020 Bundling agri-food innovations Nature Sustainability volume 3, https://www.nature.com/articles/s41893-020-00672-5

Barrett, C.B., Benton, T.G., Cooper, K.A. et al. Bundling innovations to transform agri-food systems. Nat Sustain 3, 974–976 (2020). https://doi.org/10.1038/s41893-020-00661-8 https://www.nature.com/articles/s41893-020-00661-8#citeas

(文責:研究戦略室 飯山みゆき)

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