Pick Up

332. 食料システム転換のための科学・技術・イノベーションの役割

関連プログラム
情報

 

332. 食料システム転換のための科学・技術・イノベーションの役割


食料システム或いはフードシステムアプローチは、食料生産だけでなく、生産から消費、そしてそれらのアウトカムに至る全ての活動を分析対象とし、環境・社会経済的なインパクトも対象にする研究分野です。以前紹介した記事から、フードシステムの展開を振り返ってみます。 

人類史の始まりとともに、フードシステムは家内的な生産・加工・消費形態から、より商業的で特化した生産・加工・消費活動へと展開してきました。とりわけ都市化と農村部における市場経済の発展とともに、ポスト・ハーベスト活動の重要性が高まり、貯蔵や長距離輸送、有用な部分の抽出や利用、栄養価・官能性・衛生面の改善、などを可能にしてきました。

20世紀の中盤、フードシステムにおいて、飢饉の撲滅と人口増を見越した食料生産の増強が課題となりました。その手段の一つとして先進国と一部途上国に普及したのが、特化、機械化、バイオマスサイクルに代わり化石燃料(石炭・石油)と肥料(窒素・リン)・化学薬品(殺虫剤)を大量に使用するモデルです。ポスト・ハーベスト部門では、大規模加工・大規模生産、商品化、貿易のグローバル化、大規模流通システム(スーパーマーケット)が発展していきました。これにより、未だかつてない生産性の向上が可能になり、食料のアベイラビリティ・アクセスの改善が達成されました。しかし、飽食ともいえる状況は、環境へのダメージ(汚染、資源枯渇、生物資源喪失、気候変動)と社会的費用(健康的な食生活や所得・持続的な生業機会の不平等、非感染性疾患の増加)も伴うようになりました。近年、フードシステムを、地球・人類の健康への影響にもより配慮し、持続可能な開発と気候変動対策にも貢献するよう転換すべきという認識が高まっています。

同時にフードシステムは、無数の作物、多数の転換プロセス、調理方法や食文化、資本・技術水準などの組み合わせによって、驚くほど多様な様相を示します。この多様性は、地産資源や産品を最大限活用しながら、長年にわたる人類のイノベーションを通じて形成され、生産・加工・流通・消費・廃棄物マネジメントの異なるモデルを随時組み替えながらダイナミックに進化し続けています。

効率的でありながら誰も取り残さず、ショックに対する強靭性を有し、かつ持続的なフードシステムの構築に成功するか否かは、フードシステムの多様性に配慮しながら、科学・技術・イノベーション(science, technology and innovation)を活用できるかにかかっています。

2021年9月、2030年までに持続可能な開発目標SDGsを達成するための活動の一環として、国連事務総長の主催により国連食料システムサミット(UN Food Systems Summit: UNFSS) が予定されています。国連は食料システムサミットとその成果を裏付ける科学の独立性を担保することを目的に、科学者グループを設立しました。科学者グループは食料システムの転換にむけた提言を公表しています。 その科学グループが主催する「サイエンス・デイ」が本日7月8日から二日にわたって開催され、食料システム転換における科学・技術・イノベーションの役割について議論されます。

(文責:情報プログラム 飯山みゆき)
 

関連するページ